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□花のとぼそ
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(観月視点)





突然降り出した雨が、君の残像を呼び起こした。
散り際の桜に、追い討ちをかけるかのように。


君をもっと美しく出来る人がいる。
いつからか、そう思うようになった。
それは文字通りの美化ということか、もっと深い意味を持ったものなのか、自分でも分からなかった。
ただ一つ分かっていたことは、僕では君を完成させることは出来ない、ということだけ。
脈絡も根拠もないその提唱に、僕は一人苛まれた。
雨の日に談話室の隅で、窓の外を見やる君に、僕は自白をするように、
「君は美しい」
と伝えた。
それは単なる賛美であって、僕の歪んだ思いを伝えるには至らなかったが、君を笑わせるには十分だったらしい。
「観月に言われるなんて、嫌味に聞こえるけどね」
際限なく笑う君は、どこか畏れ多く、そしてやはり美しかった。



「武者修行はもう十分」
と言った君は、千葉に戻って進学した。
僕はそのまま高等部に進学して、一年以上が経った。
君がそばにいなくても、相も変わらず桜は咲いて、散る。
最後に交わした言葉は一体何だっただろうか。
またね、なんていう、在り来たりなものだったと思う。



君は器用な人で、誰とでも仲良くな
れた。
正反対な僕は、どこか君に拘泥してるきらいがあった。
そんな僕に君は、
「観月のそういうところすごくすき」
と、惜しげもなく言葉をくれた。



一度だけ、君と二人で外出したことがあった。
映画を見に行って、エンドロールで君は恥ずかしげもなく涙を流した。
その姿はやはりとても、美しかった。



いつのことだっただろうか。
どんな流れだったか全く覚えてないけれども、君の優しさが無性に恐ろしくなった時があった。
君の声は僕を泣かせるから、君のことは嫌いだと言うと、
「そういうところもだいすきだよ」
と、髪を撫でられた。



「俺がいなくなっても大丈夫?」
進路を決めた時、君は僕をそうからかった。
「馬鹿にしないで下さい」
と返したら、
「俺は大丈夫じゃないかも」
なんて、柄にもなく寂しげに、けれども君は笑って言った。



僕は君がいなくても、案外大丈夫だけれど、(悲しいことに)
時たまこんな風に堪らなくなる。
君は今、大丈夫だろうか。
衝動的に君の番号に電話をかけたら、留守番電話に繋がった。
何も残さずに、電話を切る。
電話がかかってきたら、再会を提案しよう。
君はまだ、笑ってくれるだろうか。

そうだ、紛れもなく。
(あれは、恋だった)





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季節外れですが。続編書くかもです。

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