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□さざめく臨界
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※二人とも変態





「まだ窮屈?」
「なかなか慣れないものだな」

一生のお願い、という貞治の信用出来ない言葉に負けて、今俺はブラジャーを着けて街を歩いている。
どういう流れでこうなったかはよく覚えていないが、何故かこんな結果になっていた。
どこで買ったのかとか何でサイズがぴったりなんだとか色々聞きたいことはあったのだが、面倒くささと呆れのために、大人しく従ったのだと思う。

「大丈夫、全然分からないよ」

幸いTシャツの上のジャケットの色が濃かったために、周りからバレはしないと思うが、余ったカップの膨らみが多少気になる。
ショーウィンドウに映った自分を見て、自然と猫背になっていたことに気が付いた。

「…お前が俺に女性的要素を求めていたとは思わなかったが」
「そういうのじゃないよ、何て言うか…非日常感が欲しかったんだな」
「…」

ほわん、と随分幸せそうに笑う貞治を見て、不機嫌になる気力も失せた。
溜め息をついて、何か食べに行こう、と先を急いだ。





運ばれてきたハンバーガーを頬張っていると、貞治の視線を痛い程に感じる。
最初は気付かない振りをしていたが、痺れを切らせて何だ、と睨んだ。

「いや
、胸元に違和感があるからなのか、いつもより動きが小さいなと思って。それでなくても蓮二は、男にしてはしとやかだけど」
「…女っぽいということか」
「というより…艶っぽい、かな」

公共の場でさらりと言ってのける所が、貞治の悪癖だ。
けれども俺は、その悪癖が嫌いではなかった。
小さく笑いつつ、紙ナプキンを取ろうとしたら、勢い余って床に落としてしまった。
慌てて体を曲げて拾おうとすると、

「…肩紐が」

貞治の手が、俺のジャケットの襟を掴んで、剥き出しになっていた肩を覆った。
恐らく拾う動作のために、服が片方へと引っ張られてしまったためだろう。
俺は思わず、声を出して笑った。

「…本当に女になった気分だ」
「…何だか、反射的に」

照れくさそうに頭を掻く貞治を見て、追い討ちをかけてやりたくなる。
そしてこの絶妙なタイミングで、今し方起こった出来事を利用する以外に手はない。

「それと今の動きのせいで、後ろが外れた」
「…へ?」
「直してくれるか?」
「も…勿論!」

まるで尻尾を振った犬のようだ。
苦笑しつつ店のトイレに入り、人がいないことを確認してジャケットとTシャツの背中部分を捲り上げる。
貞治が息を呑んだ
のが分かった。

「早くしろ、人が来る」
「あ、そうだな…」

覚束ない手つきで、ホックに触れる。
一度着けるのに失敗した拍子に、貞治の手が背中に触れた。
熱い。

「…はい、出来たよ」

圧迫感が舞い戻る。
不快だった感覚は、しかし今は。

「…貞治」
「ん?」

振り向き際に唇を奪った。
触れるだけのそれは、貞治を掻き乱すには十分だったようだ。

「…熱いな」

貞治の手を掴み、見上げて笑う。

「…俺もだ」

その手を自分の火照った首筋に導く。
触れさせてやると、貞治は困ったように笑った。

「早く帰ろう」
「え…」
「興奮を鎮めてやる」

手を離し、ドアを開けた。
慌てて追ってきた貞治にもう一度笑みを向けると、やはり困ったように笑っていた。







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初乾柳がこれという…

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