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□小指に絡む糸
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「ね、真田、秘密を作ろう」

これが、幼い頃の幸村の口癖だった。
些細な秘密をたくさん作りたがって、何でもないことを共有した。
秘密を約束したあと、幸村は決まって、

「喋ったら、殺すから」

と言い添えた。
そのほとんどは忘れてしまったが、たった一つ、忘れられない秘密があった。
小学校の教室で飼っていた、三匹の金魚の話だ。
ある朝、一匹がいなくなり、渇いた校庭の隅で発見された。
勿論からからに干からびて、死んでいた。
犯人探しが行われたが、数日経つとそれはうやむやになってしまった。
数ヶ月が経ち、皆が事件を忘れた頃に、幸村は俺に言った。

「ね、真田、秘密を作ろう」

放課後の、教室だった。
赤い西日が、幸村を照らしていた。

「あの犯人、俺なんだ」

その西日に負けないくらいの笑顔で、幸村はそう言った。

「だって、三匹じゃ窮屈だろ?だから、一番醜いやつを出したんだ。そうしたら、ほら、二匹とも、こんなに大きく綺麗になった」

自分の偉業を讃えるように、金魚鉢を撫でる。

「喋ったら、殺すから」

どこか甘美なあの契約を、俺は忘れられない。





中学に上がって、蓮二が現れた時、幸村は不機嫌を露わにした


「なんか、馴れ馴れしくて、きらい」

俺と幸村の仲に、後から入ってきたことが気に食わないらしかった。
成長するにつれ、さすがにそんな子供っぽいことは言わなくなり、俺達三人は仲睦まじく過ごしていた。
しかし、幸村が入院した数日後、俺にこう零した。

「これから、真田と蓮二の秘密の方が、増えちゃうんだろうね」

そんなもの作らん、と返しても、幸村は不機嫌に、

「秘密だよ。俺が知らない二人のことは、全部二人の秘密だ」

どこかヒステリックに、そう訴えた。

「覚えてる?金魚の秘密」

突然の思い出に、ぞくりと悪寒が走る。
ああ、と答えると、幸村は満足げに笑った。
しかしすぐに笑みを消して、幸村は唸るように続けた。

「俺は三匹目の金魚にはならない」
「…」
「三匹目の金魚は、蓮二のはずなのに」

あの日の映像が、フラッシュバックする。
二匹になった金魚を、うっとりと眺めていた幸村。
俺はごくり、と息を呑んだ。

「…幸村、」
「かなしいよ、真田」

幸村は泣いていた。
思わず胸に抱き締める。

「…ね、真田、秘密を作ろう」
「…何だか、懐かしい響きだな」

息も絶え絶えに、幸村は笑う。
顔を上げたかと思うと
、両手で頬を包んできた。
涙で濡れた顔で、必死に笑顔を作る。
次の瞬間、唇を塞がれた。

「っ…!?」

驚きのあまり、肩を押し返す。
幸村は満足そうに、俺の頬を撫でた。

「いい?俺と真田は恋人同士」
「…」
「これが、秘密だよ」

幸村が、胸に顔を埋める。

「喋ったら、殺すから」

まるで甘い悪夢のようだった。
俺はただただ全てを受け入れ、その背に腕を回すことしか出来なかった。





【小指に絡む糸】

(切る時はもちろん、その手首ごと、だよ?)




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初真幸がこれって…てか真幸じゃないなもう。精神的幸真な真幸が好きです
蓮二、逃げてー

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