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□ナイチンゲール虐殺
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柳を殺す夢を見た。

「っ…」
重い体を起こして、仁王は伸びをした。
「あー…もう…」
先日の引き金の件の影響だろう。
ずしりと重いピストルを、柳の額に向けて。
彼と目が合って数秒。
その表情は、いつもと変わらず涼しげで。
煮え切らない想いを抱えたまま、引き金を、引いた。
やけに生々しい夢に、軽い吐き気がした。
早々とベッドを出て、朝練の支度を始めた。




朝練の間は、柳と直接顔を合わせなかった。
いつもと変わらない柳の姿を遠目に見て、仁王はため息をついた。
一日中今朝の夢がまとわりつく。
澄んだ彼の表情を、どうしても崩せない。
(俺のことなんか、あいつは見とらんかった…)
焦燥を抱えたまま、昼休みを迎える。
昼寝でもしようかと保健室に入ると、先生はいなかった。
構わずベッドに向かうと、丁度閉まっていたカーテンが開いた。
「…柳」
「仁王」
仁王は動揺を隠そうと、一つ、咳払いをした。
「どしたん、珍しい」
「ん、少し、頭痛がしてな」
目と目の間を押さえる柳に、仁王は息を呑んだ。
今朝の夢で、まさに仁王が射抜いた、その場所。
「ふ、」
思わず仁王は声に出して笑った。
偶然を笑ったわけではない。
そんな偶然に、救われたような気がした、愚かな自分を笑ったのだ。
「何だ。人の不幸が面白いか」
「いや、なぁに、その…」
自白するように、今朝の夢を語る。
柳はそれを聞いて、笑った。
「それは面白い」
話しながら時計を見て、柳はおっと、と呟く。
「昼飯を食べたいので戻る。仁王は?」
「昼寝」
「…そうか、じゃあな」
カラカラ、とドアを開けた所で、柳は振り返った。
「お前は、誰かいいんだ?」
「ん?」
「最後の引き金」
「…お前さんがええのぅ」
即答すると、柳は少し困った風に笑った。
そのまま何も言わず、保健室を後にした。
ため息をついて、仁王は先程まで柳が寝ていた布団に入る。
残り香、なんてものに、どうしようもなく乱されて。
(昼寝にならんのぅ…)
白い天井を眺めて、一度声に出さずに彼を呼んだ。



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