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□水没した群青
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※吐瀉物注意





吐く、という呟きと共に、月光さんは言葉の通りに吐瀉物を吐き出した。
俺はその時反射的に、と言うよりは、本能的に、だろうか。
両手を差し出して、月光さんの吐瀉物を全て受け止めてしまった。
息を荒げながら、月光さんは俺を信じられない、という目で見た。
そうして小さく、すまない、と言って、ふらつきながら医務室に向かった。



今朝から月光さんは具合が悪く少し微熱があったようだが、何とか練習を続けていた。
しかし夕方の練習後、食堂に向かっている途中に、遂に廊下にうずくまってしまった。
俺が驚いて一緒にしゃがみ込んで様子を伺うと、先程のような流れになったわけだ。

「お前すげぇな」

トイレで手を洗っていると、遠野さんがそう言ってきた。

「頭おかしいんじゃねぇの」
「…なんか、反射的に」

自分でも、おかしいと思った。
それ以前に、月光さんへの想いがおかしいことは承知している。
月光さんも、俺の気持ちが単なる敬愛ではないことにはとっくに気付いているだろう。
今日の行為で確信されてしまったとしても仕方がない。

「越知、今日は医務室で寝るってよ」
「…そうっすか」
「飯、持って行ってやれよ」
「そうします」

洗っても、独特の酸っぱい臭いは取れない気がした。
同時に、掌に残る生温さも。
形容できない妙な気持ちを押し殺して、食堂に向かった。
手早く自分の食事を終えて、胃に優しそうな食事を選び、盆に載せる。
そのまま医務室に向かい中に入ると、スタッフの人にベッドを教えてもらった。
静かにカーテンを開けて、ベッドの隣の机に盆を置く。
なるべく静かにカーテンを閉めると、ベッドの中の月光さんが小さく動いてこっちを向いた。

「…毛利、」
「すみません、起こしました?」
「いや…寝てはいなかった」
「熱は?」
「…8度5分」
「うわ、よう今日粘りましたね…」

月光さんの頬に手を添えると、驚くほど熱かった。

「一応、飯、持ってきましたけど」
「…」
「水分だけでも、」
「…起きるのが辛い」

苦しそうに息をする月光さんに、不謹慎ながらも興奮を覚えた。
目を覆い隠す髪を掻き上げてやると、上気した頬と、虚ろな視線で俺を見上げる。
ごくり、喉が鳴った。

「…毛利、」
「はい?」
「…」

頬を撫でると、月光さんは目を伏せた。
俺は小さく笑って、盆に載せたお茶を手に取り、口に含む。
そして月光さんの顎を掴むと、そのまま唇を重ねた。
抵抗が無かったのは、熱に浮かされたせいか。

「…ん、」

ゆっくりとお茶を口内に流し込むと、月光さんはそれを嚥下した。
唇を離すと、月光さんは無言で俺を見つめた。

「…もっと欲しい?」

答えを待たず、再び繰り返す。
月光さんは少し苦しそうに全てを飲み込んだ。

「…毛利、」
「はい?」
「…すまない」

謝るのは、俺の方だ。
病気を利用して、勝手なことをして。
なのに月光さんは、俺の行為を責めたりしない。
この想いを月光さんに受け入れられてしまったら、俺はきっと際限なく堕落するだろう。
だから、

「…ごめん、月光さん」
「…」
「もう、困らせること、せぇへんから」

最後に、と心に誓い、一度だけ口実のない口付けをした。














―――――
不完全燃焼
もっとこう、エロいというか瑞々しい感じにしたかった…

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