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□イン・ザ・ボックス
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※モブ視点
※齋君前提







昨夜はベッドに寝転んでいたら、早い時間にそのまま眠ってしまった。
まだ暗いうちに目覚めたが、既に睡眠は満たされていた。
手持無沙汰になった俺は、いつもより一時間も早く、教室に着いた。

「…あれ?」
「おはようございます。早いですね」

確実に一番乗り、と思ってドアを開けると、そこには君島の姿があった。

「いつもこんな早いの?」
「いえ、今日は何となく」
「ふぅん、俺もだけど」
「遅刻魔な貴方が、珍しいですね」
「うるせぇ」

そう言葉を交わすと、君島の机の前の席に座る。
君島は黙ったまま、メールを打っていた。

「齋藤さんに?」

唐突にそう投げると、ぴくり、と彼の眉が動いた。

「熱心だねー」
「…」

彼は携帯を置いて、溜め息をつく。

君島のそのような関係を知ったのは、少し前だ。
君島がメール画面を開いたまま携帯を閉じ、机に置いていた。
俺は何の気なしにそれを開き、中を見てしまったのだ。
内容は、家に来る時間を聞いているだけだったのだが、送り主の齋藤コーチという名前が引っ掛かり、怒りながら携帯を奪い返した君島に聞いた。
彼は少し黙ったのち、全てを話した。
元々俺と君島はそこまで深い関係ではなかったため、そんなことを話してくれるとは、俺も驚いた。

「貴方は言いふらす人ではなさそうですから」

そう言って、君島は去って行った。
そのことは勿論、誰にも言っていない。
いや、言ったところで、さほど信頼のない俺の話を信じてもらえる自信もなかったし、何より、言いふらす気になれなかった。
恐らく君島は、ずっと一人で抱え込んで、誰かに聞いてほしかった。
そんな様子を感じ取ったからだ。
それからというもの、俺たちの関係は近しいものとなった。
休み時間に話したり、下校途中で会えば、一緒に帰ったりした。
俺は特に詮索好きではないため、あれから一度もその話を掘り起こしたことはない。
けれども今朝はふと気になって、話を振ってみたのだ。

「テニスも勉強も出来てメデイアでも有名な君島くんは、女だけでなくそういう大人の方にもおモテになりますねー」
「…そう思いますか」
「へ?」
「やっぱり、私の価値はそれだけだと、思いますか」

軽口に対しての、重い声に俺は息を呑んだ。
同時に向けられた視線は、不安に溢れていて。

「…そんなわけ、ねぇじゃん」

思わず目を逸らして、小さく応えた。

「…ありがとうございます」

君島は謝辞を述べる。
恐らくそれは、形だけのものだろう。
そんなことは一先ず気にせず、急に思い立って彼の髪を撫でた。

「…何ですか」
「いや、こういう風に可愛がられてんのかなぁって思って」
「…別に、そんなことされませんよ」

呆れたように、君島は笑う。
その笑顔に、何だか無性に安堵を覚えた。

「君島ってなんか、無抵抗だよな」
「そうですか」
「ヤる時もマグロなの?」
「…下品な話は嫌いです」

そう言うと、俺の手を払った。
そうしてため息をつくと、俺と視線を合わせる。

「貴方は、稀少動物でも見ている気持ちなんでしょう」
「…別に、そういう」
「そりゃそうですよね。年上の男に脚開いてる男色野郎なんて、珍しくて、面白くて仕方ないですよね」

途端に口ぶりが下卑たものになり、俺は驚いた。
声のトーンこそは変わらないが、明らかに君島は怒っていた。
俺は一つ溜息をついて、髪をかいた。

「別にそんな、物珍しさで絡んでるわけじゃねぇよ」
「そうですか」
「知る前から絡んでたじゃんか」
「そうですね」

色のない返事だった。
君島は再び携帯を開いて、文字を打つ。
しばしの沈黙の後、完了、とでも言うように、携帯を鞄の中にしまった。

「…なぁ、」
「はい?」
「家、近いよな」
「はい?」
「俺と君島の、」
「ああ、そうですね」

君島の声音は、平常に戻っていた。
思ったよりも彼は冷静でもなく、気も変わり易い。
そう思った瞬間、俺は妙に親近感を持った。

「じゃあさ、今度遊びに行ってもいい?」
「…どういう流れで、そうなるんですか」

呆れた風に、君島は笑う。
俺は何となく、と応えて、伸びをする。

「暇があれば、どうぞ」

向けられた満面の笑みは、メディアのそれと全く同じだった。










―――――
ただの俺得

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