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□Plastic
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※あくと=モデル、月光さん=パリコレモデル、寿三郎=カメラマン(現代アーティスト)という設定のパロ
※寿あくと、寿月ですが月光さんは出てきません
※完全に趣味
※全体的に悪趣味
※寿三郎があたまおかしい
※あくと視点



















何度見ても悪趣味だ。
自分が写っている写真を見ながら、俺は嘲笑う。
真っ白なマリアの石像を逆さまにして右手に持ち、真っ黒な服に身を包んで口だけ笑う俺の姿。
「目は笑うな」と指示された結果、実に気味の悪い出来になった。
この写真を撮った当人である毛利は、大層気に入っていたが。

マリアは処女のまま受胎したが、男である俺は、何度精子を受け入れても受胎することはない。
よって、マリアと俺は、正反対の関係である。
そのようなコンセプトの作品らしい。
因みにタイトルは「現実」。
その他の写真もなかなかのものだ。
男物のスーツを着ながら、赤いルージュとピンヒールを身につけている「z」。
拳銃を男根に見立ててそれをフェラしている「それは鬱屈したある夜のこと」。
囚人服でフランス料理を丁寧に食べている「閉ざされた日」。
聖書のページを破って床に敷き詰め、その上でいかにも事後の雰囲気で寝ている「ローマ、既存、それともう一つ」。

毛利のこれまでの作品にも多少の背徳感、エロティシズムは含まれていたが、ここまで直接的な表現はなかったので、打ち合わせの際には驚いた。

写真集は物議を呼んだが、それなりに好評で、俺の仕事も増えた。
その点では毛利に感謝している。
だから、彼が俺の家に住み着いていることも、恋仲でもないのに抱かれることも、許容している。
言葉の投げ合いも嫌いじゃないし、セックスも上手い。
互いに利用し合っていることを重々承知しながら、俺たちは生きていた。

二本目の煙草が終わる頃に、毛利が合い鍵を使って帰ってきた。
時刻は夜の十一時を回っている。

「今日はちょっと寒いですね」
「ああ」
「早く春らしくなってほしいなぁ」
「うん、」

俺は新聞をめくりながら、毛利の顔も見ずに適当に会話をしていた。

「そうそう。今日、月光さんに会ったんです」
「え?」
「知ってますよね、越知月光さん」

俺は思わず顔を上げて毛利を見た。
当然知っている。
世界的に有名なパリコレモデルだ。
以前仕事で一緒になって、それから何度か食事に行ったことはある。
しかし越知さんが海外に戻ってから、全く連絡を取っていなかった。

「お前、知り合いだっけ?」
「ええ。高校の先輩なんです」
「そうなのか?」

そんなことは初耳だ。
俺の驚き方が面白かったのか、毛利は笑った。

「それで、月光さんで写真集作ること、決まったんですよ」
「・・・は?」

俺は耳を疑った。
あんな悪趣味な写真集を作った前例がある毛利が、越知さんで写真集を作るだと?

「・・・やめとけよ」
「へ?何でです?」
「だってな、俺みたいな二流モデルだったら、どれだけ俗物にしても話のネタになるだけで済むけどさ、越知さんは違うだろ。お前、越知さんの未来を潰す気か?」
「潰すなんて、酷い言い方しますね」
「だってそうだろ。お前の作品にされるなんて、被害者レベルだ」

はっきり言うなぁ、と毛利はけらけら笑った。
俺の言い分は正しいと思う。
越知さんのような正当派モデルに、余計なイメージを付与することは、彼の今後の仕事に大きな影響を及ぼす。
そのくらいは越知さんも分かっているはずなのに、許容しただなんて、毛利の本質を知らないに違いない。

「まぁ、あくとさんに関係ないですから」

俺の反論も空しくそう一蹴すると、毛利は風呂に向かっていった。









越知さんに連絡しよう、毛利の仕事を断るように説得しよう。
そう思いながらも仕事が忙しく、いつの間にか頭から消え去ってしまっていた。
そして数週間がたったある日、毛利が作業途中のまま放置したパソコンを見て、絶望した。
そこには、既に越知さんの写真が大量に並んでいた。
俺は自分の失態に頭を抱えたが、もう後の祭り。
怖いもの見たさで、パソコンの前に座ってマウスを握った。
何気ない写真もあるが、やはり「毛利らしい」作品に目がいく。
スーツを着て、首のネクタイが天井に繋がっている写真。
体を降り曲げて、段ボールに梱包されている写真。
目尻に紅をさした片目を晒したアップ。
フルヌード。
それらは寒気がするほど美しかった。

「いいでしょ」

突然後ろから毛利の声がして、驚いて振り返る。
シャワーから上がったのだろう、濡れた髪をタオルで拭いていた。

「・・・よくこんなの撮らせてくれたな」
「あくとさんが思ってるより、俺、月光さんに信頼されてるんですよ?」
「・・・」

俺は不思議に思いながらも、本人が許諾したなら口を挟む必要もないかと考え直した。

「・・・お前さ、また素材が良いだけって詰られるぞ。もっと普通の人間を撮れよ」
「普通って、その辺におる人ってこと?」
「ああ。そういうのも、撮ってただろ?」
「んー・・・まぁ、悪くないんですけど、やっぱり面白くないんですよね」
「面白くするのが芸術家の仕事だろ」

毛利は少し困ったように笑いながら、タオルで髪を乱暴に拭いた。
そしてタオルを肩に掛け、暫し黙った後、意を決したように口を開いた。

「・・・・・・最低なこと言いますけど、俺、写真撮ることって、セックスとイコールやと思ってるんです」
「・・・へぇ」

それは興味深い。
俺は毛利に向き直って、続きを待つ。

「何百回、何千回ってシャッター切って、その中で一番イイ瞬間だけ残して、保存して。・・・それが自分の思い通りに染まってる瞬間ですよね。そんで、その写真が世の中に新しい概念やイメージを生む。それは、俺がその人を孕ませたことと同義なんです。だから、やりたいって思った人じゃないと、作品作りたいって思わないんです」

俺は一つ一つ言葉を咀嚼しながらそれを聞いていた。
考え方は理解できたが、毛利のことを理解したいとは思えなかった。

「・・・だから、俺のこと撮ったの」
「そうです。やりたくてしょうがなかったんです」
「本当にやったけどな」
「実質が伴うのは珍しいです」

「珍しい」ということは、俺の他にもあったんだな。
そう思って苦笑いする。
そして再び考えて、一つの答えに行き着いた。

「じゃあお前、越知さんとやりたいんだ」
「そうですね」
「少しは隠せよ馬鹿」

はは、と毛利はやけに楽しそうに笑った。
俺は溜め息をついて、もう一度パソコンに目をやった。

「・・・俺が月光さんの写真を撮って、その写真が世の中に何かしら新しい概念を生み出すことが出来たら、それは月光さんを孕ませることと、おんなじなんです」

言葉を聞きながら、並んだ写真を一瞥する。
そんな話を聞いた後では、先程と随分見方が変わってくる。

「・・・これは、その表現?」

俺は苦笑いしながら、ある写真をクリックする。
大きく表示されたその写真とは、裸の越知さんの腹に、妊娠しているような加工を施したものだ。

「遊びですよ、遊び」

ほんの少しばつが悪そうに、毛利は俺からマウスを奪ってファイルを閉じる。
今の写真のタイトルが「夢」だという事実を、俺は見逃さなかった。

「・・・狂ってる」
「狂ってなきゃ、芸術家なんてやってませんよ」

そう言って越知さんの写真を愛しそうに見る毛利の横顔を眺めながら、いつか殺されるかもしれない、と本能的に思った。















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完全なる趣味でお送りいたしました
私が大学で美学芸術学、現代アートを専攻していた影響が出すぎた
写真、すきなんですよ、すごく

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