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□夜と窓
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※大学生、三津谷の家








ぱきり、伸びた爪を折ると、静かな部屋にやけに響いた。
夜半の三津谷の自室は、どこか神聖で身震いした。
ふと窓辺に目をやれば、寝ていたはずの三津谷が外を眺めていた。
俺が携帯電話を見ていたせいで、気づかなかったようだ。
起きてたら言えよ、そんな言葉も言えないくらい、その姿は美しかった。
月の光を浴びる白い裸体は、下手すればそのまま闇に溶けていきそうで。
そのまましばし見つめていると、すっと三津谷がこちらを向いた。

「…何ですか?」
「…え?いや…」
「見とれてました?」

くす、と笑む表情に、思わず鳥肌が立った。
常時からの色気は否定できないが、今夜のそれは桁が違った。

「…何か、着ろよ」
「今更、何照れてるんですか」
「…風邪引くだろ」
「ふふ」

そんなこと、言いたいんじゃないでしょう?
的を射た三津谷の言葉に、ぐ、と唾を飲み込む。

「…消えるんじゃ、ないかと思った」
「俺がですか?」
「ああ」
「何ですか、それ…」

三津谷は苦笑いをしながら、伸びた髪を掻き上げた。
そのままゆっくりとベッドに戻って、布団に潜った。
俺は椅子から立ち上がり、ベッドに近付く。
そこに腰掛けて、三津谷の髪を撫でた。

「…救うのは、誰ですか」
「……自信が、」
「ない、なんて、あなたらしくない」

俺を見上げて、三津谷は笑う。
顔を上げてきたから、望まれるままに口付けた。

「無責任に言われるより、ずっといいですけどね」
「…そうか」
「あなたは夜を神聖視しすぎです」
「は?」
「そして朝を過信してる」
「…なんのことじゃ」

唐突な話題にそう返すと、三津谷が少し残念そうに笑う。
俺の理解を超える三津谷の言葉にはもう慣れた。
向こうもそれを承知の上で言っているのだ。

「夜が過ぎたら、朝が来るって信じてるってことですよ」
「…お前はそうじゃないんか」
「さぁ、どうでしょう」

見つめ合うこと数秒、三津谷の指が俺の輪郭をなぞる。
ぞくり、と寒気がした。

「ね、もう一回しましょうか」
「は!?や、でも…」
「したいんでしょう」
「……」

首に腕が回されて、もう一度舌を絡ませる。
そのまま導かれて、二人して沈み込む。
夜が過ぎたら朝が来る。
その循環に、三津谷が僅かでも疑問を感じているとしたら。
声を殺そうと戦慄く唇に口付けて、消えないようにきつく抱いた。















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