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□フィッシュインザブルー
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深い水底に沈む。
それが次第次第に上昇する。
浮かぶ感覚の中、額への僅かな痛みが俺を覚醒させた。

「…おぅ」
「おぅじゃない。授業はもう始まってるぞ」

ぼんやりとした視界に映ったのは、しかめっ面をした柳の顔。
欠伸をしながら周りを見回すと、教室には誰もいなかった。

「あれ?昼休み終わったん?」
「とっくに終わった。早く美術室に行くぞ」
「呼びに来てくれたん?」
「先生に頼まれた」

寝起きの気だるさに負けて、もう一度机に顔を付ける。

「…何だかお前は、沈み魚みたいだな」
「しずみうお?」
「ずっと水底にいる魚のことだ」
「ほぅ」

柳の発言が、微かに残る白昼夢の名残と重なった。
それが妙に嬉しくて、俺は一人忍び笑う。

「柳が掬い上げてくれるんじゃろ?」
「…釣り糸でな」
「そりゃあ痛そうやのぅ」

良いから行くぞ、と背を向けた柳の腕を掴む。

「…何だ」
「酸欠やから、人口呼吸もお願いするぜよ」
「…」

黙殺されるのを覚悟で、柳をじっと見つめる。
束の間の後、諦めて手を離した。

「まぁ怒りなさんな…」

椅子から立ち上がったと同時に、腕を引かれて。
事態を飲み込む前に、唇にやわらかな感触を感じた。

「さぁ行くぞ」
「…」

何事もなかったように、柳は手を離してそう言った。
柳の不意打ちは、唇が触れただけなのに、想像以上に官能的で。
不本意ながらも、耳が熱くなった。

「青天の霹靂…」

足早に進む柳を追いながら、俺は習ったばかりの言葉を呟いた。





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結局勝てない仁王、てのが好き

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