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□楽園なんかない
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「抱いてくれない?」

精市のその要求に、俺は強い吐き気を覚えた。
今まで、キスをされたり抱き締められたり、押し倒されたり何故か首を絞められたことはあったが、どれよりも強い嫌悪感を覚えた。
彼は雄々しい。
なのに、時にこうして雌を覗かせる。
俺はその雌を嫌っているわけではない。
ただ、彼がそうやって、自分の価値を知り、それを利用いることが我慢ならないのだ。
俺は部誌を書く手を止めて、精市の方を向いた。

「…精市、俺はお前の雄々しさが好きなんだ。頼むから、俺の前で『自分を利用』しないでくれないか」
「…随分、気に障る拒み方だねー」

精市はからからと笑った。
髪に絡んでくる指を手で払って、精市を睨む。

「そんな精市は嫌いだ」

吐き捨てるように言うと、精市は笑みを深めた。

「まぁいいや、蓮二に嫌われたって」
「…」
「じゃあ代わりに、一発殴ってくれる?」
「…そういうことは、弦一郎に頼め」
「やだなぁ、真田が俺を殴れるわけないじゃん」

弦一郎の名を出した途端、精市の笑みは作り物になる。
精市はもう何年も、募る想いを伝えられないでいる。
初めはその悩みを聞くだけだったのに、いつから歯車が狂い出したのか。

「つまんないなぁ蓮二は。仁王なら、喜んで何だってしてくれるのに」

精市が、仁王とそういう関係にあることは耳にしていた。
俺は深い溜め息をつく。

「…精市」
「何?」
「俺はお前が大切だ」
「だから何?」
「…」

精市の顔が、不機嫌に歪む。
俺は構わず、続けた。

「辛いなら、そう言えばいいじゃないか。話なら、いつでも聞く」
「…」

精市はじっと俺を見つめた。
そして弾かれたように、笑い出した。

「何でも分かり切った風に言うの、蓮二の悪い癖だよねぇ」

そういうとこ、ほんときらい。
笑顔のままそう言って、精市は鞄を手に取った。

「…もういい、早く帰れ」
「言われなくとも」

じゃあねーと明るい声を残して、精市はその場をあとにした。
俺は口元を押さえて、湧き上がる涙を押し殺した。











【楽園なんかない】

(お前には、未来永劫響かない)







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幸村にずたずたにされる蓮二が書きたくて
続きます

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