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□アルビノとコスモス
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屋上にはお気に入りの隠れ場所がある。
何の機械か分からないが、大きな直方体の機械があり、その周りを柵が囲んでいる。
その柵と、屋上の外側の柵との間には、少し無理をすれば入り込める隙間があった。
入口はとても狭いのだが、入り込んでしまえば、途中に機械に凹み部分があり、そこでは十分快適に座ることが出来る。
春風が吹く中、俺は保健の授業をサボって、そこに座りこんでいた。
眼下には、住宅街が広がっている。
グラウンドは真逆の方向なので少し退屈だが、遠くに広がる青い山が、俺は好きだった。
しばらくぼんやりと景色を眺めて、一眠りでもするか、と考えた時だった。

「いい場所を見つけたな、仁王」

そんな声が飛んできて、俺は飛び上るほど驚いた。
声の方向を見ると、涼しい顔で隙間を覗き込んでいる柳先生の姿があった。

「な、なんで…」

速くなっていた鼓動を抑えようと、息を吐く。
柳先生は、国語担当の教師である。
厳格そうな見た目とは裏腹に、ユーモアのある授業をする、まだ若い教師だ。

「少し用事で外に出ていてな、この下を通った時に、お前の髪が光って見えた」
「…」
「隠れるには少し、不向きな色だな」
「…」
「でも、いい色だ」

生徒指導に散々詰られ続けている銀髪を、まさか褒められるとは思わなかった。
いや、それよりも、

「…サボったん怒らんなんて、教師失格じゃ」

隙間から出ながらそう言ってやると、柳先生はふ、と笑った。

「少しくらいの逸脱は、構わないと思っている。もう自分の判断で選ぶ年齢だからな」
「…はぁ」

柵にもたれかかって話す柳先生の横に腰を下ろす。

「お前のことだから、副教科はどうでもいいとか思っているのだろう」
「…あったり―」

それなりの進学校であるこの学校で、俺は中の上の成績を保っている。
こんな髪色にしても放置されているのは、(まぁ指導は受けているが)そのおかげであった。

「次は出るのだろう?」
「へ?」
「俺の授業だ。今日は試験に出すところをやるぞ」
「…そりゃ、出なあかんのう」

そう言うと、柳先生は俺を見下ろして嬉しそうに笑った。
風が吹いて、彼の髪がさらさらと揺れる。

「せんせーの…」
「ん?」
「先生の髪、綺麗じゃなぁ」
「…どうした、急に」

問われて、自分でも何を口走っているのだ、と自問した。
そして見上げながら、こんな角度で彼を見るのは初めてだと思った。
長い睫毛と、白い喉元に目がいく。
そう言えば、彼は日傘を差していたな、と不意に思い出した。

「何だ?」
「何も…」

視線が絡んで、思わず逃げる。
同時にチャイムが鳴った。

「さぁ、観念しろ」
「…わかっとる」

重い腰を上げて、伸びをする。
素早く歩き出した先生の背中を目で追う。

「そうだ、仁王」
「ん?」
「黙っていてやるから、俺にもあの場所を貸せ」
「…お、おう」

頷くと、先生はにこりと笑ってその場を後にした。
俺は脱力したように、もう一度床に腰を下ろした。

(…いかん、いかん)

隠れ場所が、彼との共有のものになった。
それだけで、こんなにも。

(…嘘じゃろ)


どうやら、これは、紛れもなく。

恋をした、ようです。









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うわぁぁぁ砂吐く!!←
続くのか!!分かりませんが!!とにかく楽しかったです!笑

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