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□Systematic
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Plasticの続き


※あくと=モデル、月光さん=パリコレモデル、寿三郎・齋藤=カメラマン(現代アーティスト)という設定のパロ
※寿あくと、寿月ですが月光さんは出てきません
※完全に趣味
※全体的に悪趣味
※オリキャラ登場
※あくと視点





















目が覚める。
季節は冬だが、エアコンのタイマーを設定していたおかげで、室内は暖かい。
俺はベッドから這い出し、顔を洗いにいく。
それが終わると眼鏡をかけ、大きな姿見の前に立ち、服を脱ぐ。
下着だけ残した状態で、体のラインを確認する。
首筋から肩、腕から指先、胸から腹、脚の付け根から、爪先まで。
一つ一つ舐めるように、視線で追う。
続いて姿見に近付いて、眼鏡を取る。
頬にかかった髪を掻き上げて、肌と顔のパーツと輪郭を確認する。
大丈夫。
ほっと一息つくと、ベッドの方向から視線を感じた。
眼鏡をかけ直し、振り向くと、目覚めたらしい毛利と目が合った。

「今日、撮影でしたっけ?」
「打ち合わせ」
「ふぅん。誰と?」
「齋藤さん」
「ああ、そうでしたね」

毛利は少し不機嫌そうに欠伸をし、起き上がった。
齋藤さんとは、カメラマンだ。
普段は専ら女性を撮影し、いわゆる「分かりやすい、セクシー」な写真集を多く出している。
直球の表現が面白くない、と毛利は揶揄していた。

俺がシャツを羽織っていると、毛利がこちらにやってきて、手で首筋を撫でてきた。

「・・・なに」
「まだ、時間あるでしょ」
「あるけど」
「一回セックスしときましょ」
「・・・なんだそれ」
「その方が色気出ると思うし」
「撮影するわけじゃないけど」
「でも、初対面でしょ。そんなら万全の色気の方がええと思いますよ」

意味が分からない。
そうぼやくと、噛みつくようにキスをされた。
早急に舌が侵入してきて、面倒になって諦めた。
こいつは聞き分けが悪い。
毛利の指が俺の髪をかき上げ、爪で地肌を刺激する。
もう片方の手は、太股の内側を撫でてきた。

「・・・痕、付けないなら」
「あはは、痕付けるなんて、そんな独占欲見せつけるみたいな格好悪いこと、絶対にしませんよ」
「お前にも恥じらいってあるんだ」
「はは、」

嫌みを流すような笑いに腹が立って、毛利の中心にズボン越しに触れてやった。
そこはもう馬鹿みたいに熱を持っていた。
乱暴にベッドに押し倒される。
覆い被さってきた毛利の首に腕を回して、「15分」と命令した。















「はじめまして。齋藤です」
「こちらこそはじめまして。三津谷あくとです」
「写真集見ましたよ。実にイイ趣味でしたね」
「ふふ、どういう意味ですか?」

俺のマネージャーの仲介を挟んで、通り一遍の挨拶と世間話を投げ合う。
聞いていたとおり、笑顔が多く、やわらかな雰囲気の人だった。

「さて、話はこれくらいにして、本題に入りましょうか」

しばしの歓談の後、齋藤さんがそう言って俺のマネージャーに目を向けた。

「はい。えー、今回は、プールシリーズということで、お伺いしていますが」

マネージャーがそう切り出すと、齋藤さんはにっこりと笑った。

「ええ。水中での撮影シリーズです。ご存じの通り、私は普段は女性を撮っていますので、ただの水着の写真集だと陰で言われていますが」

はは、と齋藤さんは笑う。

「でも、そういう感じではなかったですね」
「おや、三津谷くんはそう思ってくれたんですか?」
「ええ」

齋藤さんの写真集はたくさん見ているが、今回俺が選ばれた「プール」シリーズは、毛色が違った。
単純に体のラインを強調する写真では到底ない。
プールサイドに力なく横たわる姿、水中で見開かれた目、泡を出さない開かれた口。
普段の齋藤さんが撮るエロティックな写真を「生」とするならば、「プール」シリーズは「死」だと感じた。

「俺が選ばれた時点で、普通の写真集ではないでしょ」
「あはは、面白い人ですね、三津谷くんは」

齋藤さんは満足そうに言った。
マネージャーは複雑な顔で俺に目を向ける。
俺はそれに気付かない振りをして、話を進めた。

「どこで撮るんですか?」
「ホテルのプールを予約するつもりです」
「海ではないんですね」
「海では、コンセプトからずれてしまいますからね」
「コンセプトはつくりもの、でしたよね」
「はい、そうです」

齋藤さんはさぞ嬉しそうに微笑む。

「人工の水槽じゃないと、意味がない」

水槽、という言葉に、狂気を感じた。
毛利で慣れたはずなのに、と心の中で自嘲する。

「それでは、日取りの方は・・・」

マネージャーが予定を合わせているのをぼんやりと聞きながら、水槽の中にいる自分を想像する。
青く冷たく狭い呼吸を奪う空間。
それは至極官能的に思え、俺は人知れずほくそ笑んだ。






















「なぁ、あくと」

打ち合わせの帰りの車内、マネージャーが運転しながら声をかけてきた。

「ん?」
「何か、ごめんな」
「何が?」
「・・・毛利さんの仕事引き受けてから、お前のイメージがさ、なんか、こう、」
「・・・ああ、そういうことか」

マネージャーが言いたいことはよく分かっていた。
彼は俺より二つ上で、若い割に営業が上手い。
だが、それが祟ってたまにとんでもない仕事まで持ってくる。
ただ、「断るつもりだけど」と苦しそうに笑う彼を見てると、思わず引き受けてしまうのだ。
さすがの営業力だ。俺に、対しても。

「俺は感謝してるよ」
「・・・」
「あのままじゃ、俺、絶対に売れなかったし」
「・・・」
「だから、謝るのはやめてくれ」
「・・・うん」

しかし、これは事実だった。
正統派を走っていた俺は、あのままでは八方塞がりだった。
モデルなんて腐るほどいるのだ。
強い個性がない限り、この世界では生きていけない。

「いいじゃないか。今の自分の世間のイメージ、俺は気に入ってるよ」

中性的で、エロティックな、ビッチ野郎。
改めて口に出してみて、笑えた。
イメージじゃない、真実だ、と。


















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続きます
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