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□命知らずと月桂樹
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「…もう、いいですか?」

僕のタイミングを伺う時の彼の困った顔は、何度見てもぞくりする。
元々造りの良い顔を歪めて、待ち望んだ快楽を前に静かなる欲求を滾らせている。
彼にそんな顔をされたら、いつだって受け入れてあげるのに。

「…いいよ、来て」

そう笑うと、彼は安堵したように笑みを返して、コンドームの袋を手に取った。

「…ねぇ」
「はい?」
「それ、口で開けてよ」
「…」

照れたように笑った後、僕の要求に応じる。
白い健康な歯が、袋を突き破る。
ああ、たまんない。

「徳川くん、やらしー」
「…しろと言ったのは、入江さんでしょう」
「ふふ」

装着している姿をじっと見つめてやると、恥ずかしいのか枕を僕の顔に押し付けてきた。

「眼鏡割れちゃうよ」

けらけらと笑いながら枕をどかすと、準備が整ったらしい徳川くんが、僕の足を抱え上げ
た。

「んっ…」

繋がる瞬間は、何度しても慣れないもので。
僕は目をつむって、なるべく力を抜いた。

「…大丈夫、ですか」
「うん…大丈夫」
「きつ…」
「う…く、」

全て埋め込むと、徳川くんは深く息を吐いた。
額を合わせて、視線が絡む。

「なんかね…」
「はい?」
「征服された、気がする」
「…」

こくり、と徳川くんの喉が鳴った。
どうやら、こういう言葉に弱いみたいだね。
口内を探りながら、腰を揺らす。
緩慢な動きは、徐々に僕から痛みを奪う。

「ぁっ…徳川くん…」
「…」
「きもちぃ…」

唇を離すと、唾液の糸が橋を作った。
そんなこと構わずに、僕は首を反らして鳴いた。
すると徳川くんの唇が喉を這って、歯を立てられた。

「あ、ぁ、徳川くん…」
「はい…?」
「ね、名前、呼んで…」
「入江さん…」
「そっち、じゃない、でしょ…?」

律動を続けながら、僕は必死に言葉を紡ぐ。
徳川くんも余裕なく笑って、唇に口付けて、速度を上げた。

「奏多…」
「ふふ、そう…ぁ、っ…」

絶頂に向かっている時の、彼の焦点の合わない深い瞳が好きだ。
僕を気に掛けることを手放して、己の快楽だけを追う、欲望だけの存在。
造り物みたいな完璧な彼を、そんな下等な動物に堕落させる。
こんな特権、誰にもやらない。

「っ…は…」
「いい、よ…いって?」

彼の指が僕の中心を追い上げる。
限界を間近にしても、僕は全てを委ねることが出来ないでいた。
僕らは、閉鎖的な空間で出会ったから、今こうしているだけかもしれない。
彼には、僕に愛される義務なんてない。
僕は、そんなどうしようもないことばかり考えていて。
いつだって、いつだって、いつだって不安。

「ん、ん…っ!」
「っく…」

互いに縋り付いて、熱を吐きだす。
荒い息を吐いて、震えをやり過ごす。
何度か軽い口付けを交わして、繋がりを解いた。
抱き締め合ったまま、呼吸を整える。
しばしの後、徳川くんが口を開いた。

「入江さん、もう大学に行ってしまいますけど…」
「うん?」
「…また、会ってくれますか」

不安げな、彼がとてつもなく愛おしい。
頬に口付けて、視線を合わせた。

「…当たり前だよ」

彼が求めてくれているなら。
今はただ、それを信じてみようと思い、熱い胸に顔をうずめた。









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シリアス失敗、な感じ…

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