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□North West 147
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※死刑囚の毛利と刑務官の越知
※不謹慎



















「ねぇ月光さん、命の重さってどんなもんやと思います?」
「・・・考えたことはない」
「命預かってる人間やのに?」
「・・・お前はどう思う?」
「あはは、人殺した奴にそんなこと聞き返すなんて、月光さんておもろい人やなぁ」

真夜中の拘置所の狭い檻の中で、場違いな明るい声が響く。
彼の名は毛利。二人の人間を殺した死刑囚だ。
判決が出た後、控訴することを薦められているのに、一向に従おうとしない風変わりな奴だ。
元々俺の担当ではなかったが、一度臨時で様子を見た時に、何故か気に入られて渾名まで付けられてしまった。
上の人間がそれを見て、お前なら控訴させることが出来る、と担当にされたのだ。
しかし毛利は、頑なに控訴を拒んだ。
そして毎夜毎夜、壊れた機械のように話をする。

「飽きるほど幸せになってみたいですよね」
「…そうだな」
「でもそれはそれで不幸ですよね」
「…そうかもしれないな」
「月光さんは生きるの辛いですか?」
「…たまにな」
「死にかけの雀を拾って帰ったことあるんです」
「…そうか」
「まぁ、死にましたけど」
「…お前のせいじゃない」
「そうやといいんですけど」

狂わされる、と思う。
次々と浴びせられる言葉に襲われて、息が詰まる。
それを晴らすように、堂々巡りの話題を出す。

「毛利、いい加減に控訴しろ」
「えー、しつこいなぁ。どうせ死刑やし」
「分からない。刑が軽くなる可能性もある」
「軽くなる?終身刑ってこと?そしたら月光さん、ずっと俺のこと見といてくれます?」
「・・・」
「嫌でしょ、そんな未来」

こんなやり取りを毎夜行う。
繰り返しにうんざりしながらも、仕事だからと溜め息を飲み込んだ。

「月光さん、」
「・・・何だ」
「俺に、控訴して欲しいですか?」
「・・・ああ」
「じゃあ、キスして下さい」
「・・・」
「そしたら、控訴します」
「・・・」
「あ、分かってますよ。別に月光さんが俺に生きて欲しいから控訴しろってゆってるんじゃないってことくらい。上の人に、ゆわれてるんでしょ」
「・・・」
「ね、月光さん」

言葉を失った俺に、毛利はへへ、と笑いを漏らした。
そして即座に、また口を開く。

「ねぇ月光さん、月光さんは俺の死刑の時、何の役してくれるんです?」
「・・・」
「手縛る人?足?首に縄かける人?」
「・・・まだ決まっていない。大体、俺が担当するかも分からない」
「・・・ふぅん。でもどうせやったら、ボタン押してくれる人がええなぁ。そんなら月光さんに殺してもらえたって思えますよね」
「・・・もう寝ろ」

会話を断ち切ってそう言うと、毛利は笑顔で「はい」と答えた。
その屈託のない表情が残像になって、今日も俺を苛む。
檻の前から立ち去ると、「おやすみなさい」と声が追ってきた。
俺は露骨に溜め息をついて、何も返さずその場を後にした。
深い深い、夜。











―――――
思いつきですごめんなさい

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