小話
□雨のち晴れ
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行かねぇでくれって、どんなに思っても無駄な事を知っていた。お前が愛しているのは彼氏で、オレはただの同僚で。入る余地なんてない。
と、諦めていたのに、今オレの腕に収まる彼女はオレの物にできるんじゃねぇかっていう期待。
―もう無理だよ、
そう言って泣きそうなのを堪えている姿を見ておいて、どうして放っておけるだろうか。好きな女が浮気した彼氏を想って泣くのなんか見たくなかった。
だけど、仕方ねぇだろ。好きなんだから。
ここで「オレにしとけよ」なんて言えたら楽なのに。言えるはずねぇ。失恋にかこつけて想いを伝えたって、オレ達に残るものなんかない。残るのは、虚しさ。
泣きやんだごんべをそっと自分から引き離した。
―もう大丈夫か?
なんて紳士ぶって。本当は腕の温もりを離したくなかった。ずっとこのままでもいいって。
「そんな男とは別れろ」と助言すれば素直に従うだろう。傷ついた心に取り入るのは、たやすい。
だから、「そんな男と別れてオレにしとけ」なんて言わない。
「好きだから誰よりも幸せにする」
他の奴なんか関係ないオレの気持ち。
「ありがとう、でもごめん」
覚悟はできていた。ごんべは簡単に乗りかえるような軽い女じゃないから。絶対断るだろうと。少し安心した。そんな一途な女を好きになってよかったと。
気まずそうに、ありがとうと言って、土砂降りの雨の中を走って行った。追いかけるなんてしねぇ。追いかけたいなんて馬鹿げてる。
オレはフラれたんだ。
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