小話

□子どもじゃないけど、大人じゃない
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身体はおとなに近づくのに、いつまでも子ども扱いされる。

うまいことかわされる度、自分への苛立ちが増す。

どうして子ども扱いする?
私を一人の人間として見ない?


「あんただってまだ16だし」


サクラはそういったけど、そのサクラは私より大人びて見えた。


「え?今なんて・・?」


困惑した先生の顔。それはなぜ?
私が家に行きたいことがそんなにおかしい?


「だーめ。ただ来たいなんておかしいでしょ。本を借りたいとかなら別として」


じゃあ本を借りに行きますと言ったら、溜め息をついた。


「お前がそんな勉強熱心だとは知らなかったけど、来たいなら来なさい」



約束の午後、先生の家に行った。本と巻物が机に広がる以外、特に目立たない。


「で、どんな本借りたいの?」

「おとなになるための本」

「・・・そんな本はうちにないなぁ」

「それ、先生の読んでるやつ」

「え?」


先生はこれはおとなが読む本だと言った。わたしはおとなになって先生に認められたい。ただ純粋だった。


先生が本をパタンと閉じた。ただ「帰りなさい」と言った。なんだか怒っているようにも見えた。


「なんで帰るの?まだ本借りてない」

「おとなをからかうのはいい加減にしなさい」


おとなってなに?年を取ればおとなになるの?じゃあ、私がおとなになったら先生は何になるの?


帰り道、知らない人が私の身体を触った。気持ち悪かった。





「すまない。お前を一人で帰したばかりに」


先生が家を訪ねてきた。深刻な表情をしている。でも私は思ったほど何も感じていない。


ただ、


「もう子どもに戻れないんですね」




やっと涙が出た。




end.

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