小話

□かごのなかの鳥
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夕食の材料を調達に、スーパーへ行く。


「この魚安い」


あ、でも、今日はもう決まってるんだ。


魚売り場を後にして、カレーの材料を探した。


レジで並んでいると、幼い子がお母さんの横で必死になって、商品を袋に入れる姿が見えた。



「ああ、もう!この袋は冷蔵庫に入れないものしか入れないの!!」



子どもは今にも泣きだしそうだ。


私はつい、その子に自分を重ねてしまった。











「・・・ただいま」


重く感じた扉を開けると、今かと彼がやってくる。


「おけえ〜り〜」


彼の横を黙って通り過ぎた。


手を洗って夕食の材料をすべてテーブルの上に置いた。私はそのまま居間に行く。


「今日もうまい飯作ってやっからな!」


そう言ってルンルンの銀時は台所へ向かう。


居間で一人たたずむ私はふと、自分は何のために彼と付き合っているのだろうかと思った。






「〜ふ〜ふ〜ふ〜」





楽しそうに料理をする銀時の後ろ姿を見つめた。




「銀時、私も料理、したい」



「だーめ!これは俺の役目だからな!」



そう言って銀時は楽しそうに続ける。






「・・・・、もう、いいや」





溜っていたものがはじけた。






「もう、・・・疲れたよ、」






涙じゃなく、笑みがこぼれた。





「こんなの、・・、一緒にいる意味ない!!」











家を飛び出した。しばらく走った。途中、誰かにぶつかったのかもしれない。でも、誰だか分からなかった。


走り続けて海の見える場所へ来た。海の青を見ていると、涙がこぼれた。





付き合いはじめたのはいつだか分からない。でもそれぐらい、一緒にいるのが当たり前だった。

それでよかったんだ。

お互いを大切にする気持ちが強くなればなるほど、「してあげたい」気持ちが強くなる。

銀時は甲斐甲斐しく何でもしてくれた。家事全般に、本当になんでも。

いつからか、私は私の意思を通せなくなった。

銀時の気持ちを無駄にしたくない。その思いが強くなるほどに。

でも、もういい。もう、疲れたよ。






「そこの今まさに死のうとしてる女〜。早まるんじゃねェー」



けだるそうな声が後ろから聞こえた。
振り向くと、パトカーだった。



距離があったので叫んだ。


「死ぬつもりなんてありませーん!!」


叫んだからか、気持ちが軽くなるのを感じた。


叫ぶっていいな。


パトカーを降りてやって来たのは、真選組の人だった。



「家どこだ」


少し威圧的な様子の男の人は、煙草を吹かしながらいかにもめんどくさそうに言った。


「コラコラ土方さん。女にはもっと優しくしねーといけねーや。たとえば・・」


俺んち寄ってく?と妙なテンションで誘われる。と、すかさず「下心ォォオ!」と的確なつっこみが入った。


なんだか二人を見ていると、とても愉快な気持ちになった。


「土方コノヤローが、あんたに肩ぶつけられたみてーで、結婚を申しこみたいらしーですぜ」


「文脈考えてェェエ!!」


土方さんと言う人はその後、照れたように弁解を始めた。どうやら、町中でぶつかったのはこの人だったようで、私のことを気にかけてくれたらしい。


「あの、なんだか、ちょっと気持ちが楽になりました。私も、あなたたちみたいに何でも言い合える仲になりたいな、・・」


銀時とはまだ一緒にいたい。その努力は私だってするべきなんだ。



「家まで送ってもらえますか」














「この道を抜けて左です」


「おい、もしかしてお前・・」


「ここです」


家の前に着くと土方さんが咥えていた煙草を落とした。



「どあちち!!!」


「だ、大丈夫ですか!?大変、・・!うちに上がって冷やしましょ!」


土方さんの手を引っ張り、連れていく。



「ただいまあ!」


後ろで土方さんが「待て、」などと言っているのは気にしない。


「「あ」」


銀時と土方さんは声を揃えた。



「知り合い・・?」


「知り合いも何も、俺の行くとこ行くとこ邪魔するんだよなーコイツ」


「ああ?テメーこそだろ。」


「「ああ?」」



「それより、早く冷やして!!」


強引に土方さんを風呂場へ連れていき、シャワーをかける。後ろで銀時が「おいっ、!」と言っているのは無視。


「・・ありがとな。おかげでずぶ濡れだ」


後ろでもう一人の真選組の人が大爆笑しているのはなぜだか分からない。







玄関まで二人を見送る。



「旦那ァ、ありがとーごぜーやした。あと、そこの旦那の嫁さんも」

「いいえ。私こそ送ってもらったし。火傷には注意してくださいね」


「ああ・・・。世話になった」


土方さんはそっけなく立ち去っていく。若い男の方は会釈をして扉を閉めた。



「・・俺の本性ばれた?」


「え?」


以外な質問だった。



「俺、考えてた。お前の前での俺は完璧じゃなかったのか、て・・」


「うん」


「完璧だったからこそ、お前に無理させてたみてーだな、悪ィ、」



申し訳なさそうに頭を掻く姿が今まで見た彼のなかで一番、自然だった。


「私の本性もわかった?」


「え?」


さっきと逆の展開。


「実はガサツで負けず嫌い。銀時の思う女の子じゃないからね」


「あー。そういや、そんな場面ちょくちょくあったな」


「うそ!!」


「・・・じゃねーと、選ぶかよ」


ぶっきらぼうな言い草は、照れ隠しの裏返し。



「そのほうが、好きだよ」



「ああ?なんか言ったか?」



「なんでも〜!」



今日は二人でごはんを作ろう。


















「・・・、チ、あいつの女かよ」


土方は濡れた隊服を見て言った。





FIN.
 

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