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□prison
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「ねえ、君、松風天馬君だよね?雷門中サッカー部の」


ホーリーロード優勝にTV放送。
最近知らない人からこうやって声を掛けられる事が多くなった。
赤ちゃんを抱いたお母さん。
スーツ姿のサラリーマン。
サッカーなんか知らなそうなお婆ちゃんまで、皆が皆、俺に、
「優勝おめでとう!」って、
「これからもサッカー頑張ってね!」って笑顔で応援してくれる。
俺はそれがすっごい嬉しい!
こうやって知らない人も笑顔にして、その上応援までしてくれるなんて、サッカーってやっぱり凄いなって改めて思ってしまう。


今、俺に声を掛けてくれたのは、30台ぐらいの人かな?
大人の人の年齢ってよく分かんないけど、
円堂監督よりは10歳くらい年上で、冬海先生よりは大分若そうな汗っかきなオジサンだ。
俺が「はい、そうです!」って答えたら、肩に掛けたタオルで汗を拭きながらびっくりするくらい嬉しそうに喜んでくれる。


「うわあ!僕、この前TVで見てから天馬君のファンなんだ!!
会えたらいいなーって思って来たんだけど、本当に会えるなんて!!
僕ちん感激だよおお!!」

大人の人が俺に会えただけでこんなに喜ぶなんて、本当にサッカーってスゴイ!!
オジサンは顔中汗だくにして俺の手をぎゅって握ってくる。
うわあ、手も汗でびっしょりだ!
本当に興奮してるんだ!
少し照れるけど、なんだか嬉しいな。


「喜んでもらえて嬉しいです!!
オジサンもサッカー好きなんですか?」

「サッカー?
好き!好き!だーい好き!!
あ、勿論見る専門だけどね!!
野球もいいけど、一番はやっぱりサッカーだよね!それも少年サッカー!!
太腿の筋肉までばっちり見えるユニフォームで男の子達が汗だくになって一生懸命にぶつかり合うなんて最高!!
スライディングで縺れ合って転がったり、シュートを決めて抱き合ったりとか見てるだけで興奮しちゃうよ!!」

オジサンが両手を握りしめて、熱くサッカーを語りだす。
ふふっ、やっぱりサッカーが好きなんだ。
俺と一緒だ!


「そうですよね!サッカーって最高ですよ!!
俺もサッカー大好きです!!」

「ムッフー!
やっぱり思ったとおりだ!!天馬君、君、元気で可愛いね〜」

このオジサンも今まで応援してくれた皆みたいに、全然知らない俺の事を褒めてくれる。
サッカーが好きな人は皆、良い人ばっかりだ!


「元気じゃないとサッカー出来ないですからね!
オジサンはサッカーやらないんですか?
あっ、そう言えばさっきから凄い汗ですよ。大丈夫ですか?」

「あっ、これ?これはただの……」

アレ?さっきまで興奮気味にしゃべってたオジサンが急に黙り込んじゃった。
もしかして何か病気なのかな?
だって本当にすごい汗だ。
額からだらだらと何筋も汗が滴り落ちてるのがはっきり見える。


「て、天馬君…」

「なんですか!?」

どうしよう、オジサン急に具合悪そうになちゃった。
胸を押さえてぜいぜいって苦しそうに息してる。
俺を呼ぶ声もなんだか弱弱しい。

「し、心臓が苦しい…。
天馬君に会えて興奮しすぎちゃったみたいだ…」

「エエッ!?」

し、心臓!?それって凄く大変なんじゃ…!?
どうしよう太陽みたいに倒れちゃったら…。
そうだ、こうしちゃいられない!
俺のせいで悪くなったんなら、俺がしっかりしなきゃ!!


「大丈夫ですか!?今、救急車呼びますから!!」

俺が慌ててポケットからケータイを取り出そうとすると、オジサンが俺の手をぎゅっと握った。
病気とは思えないぐらい、その手の力は強い。

「へ、平気…。
家に薬があるから…。それ飲めば治る…」

オジサンはそう言うと、「ぐっ」って呻いて俺のお腹あたりに顔を寄せてくる。
俺のお腹を支えにしないと地面に倒れてしまいそうだ。
家に薬があるって言っても、これじゃ家まで戻れそうにない。

「で、でも、救急車呼んだ方が…」

俺がいつまでも迷っていると、オジサンが焦れたように言ってくる。

「すぐそこだし、救急車待つより早いから…ッ!
天馬君お願い!僕を家まで連れてって!」

怒鳴るように言った後、またオジサンが「ああ〜っ!」って苦しそうに呻く。
のんびりしてる場合じゃ無いみたいだ。


「じゃあ急ぎましょう!!
オジサン、歩けますか?
俺が支えて行きますから、もう少しの辛抱ですからね!!」

俺がオジサンの脇を支えてそう言うと、オジサンは返事の代わりに「ムフッ」と息を吐き出した。
それをつい笑い声みたいだと思ってしまった俺は、オジサンに対して真剣みが足りなかったのかもしれない。
だってオジサンは俺に凭れ掛からないと歩けそうもないぐらいだったんだから。

俺は心の中で「オジサン、ごめんなさい!」と謝りながら、オジサンが指差したマンションまでオジサンを支えながら歩いた。


 



 
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