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□play with toys
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「…ん、…ん、んっ、」


俺はこの「セックス」という行為がはっきり言って苦手だ。
嫌い、というのとは少し違う。
生まれて初めて出来た恋人と密着するのはドキドキするし、嫌なんかじゃない。
というかもっとしたい。
まあ、その初めての恋人が男っていうのは少し誤算だけど。
でも剣城の事はやっぱり好きだし、一見ぶっきらぼうで無口だけど本当は結構周囲に気を配っていて繊細なとことか、彼の事を知れば知るほど好きになる。
陰でかなりの努力をしてるところも、それを決して人に言わないところも男らしいと思う。
デスドロップ決めてるとことか死ぬほど格好いいと実は思ってる。
まあ、本人には一度も言ってないし口が裂けても言わないけれど。

だから嫌いというのとはやっぱり少し違うと思う。

最初は初めてだからと思っていた。
それから慣れていないだけだとも。
でも、それにしては同じ初心者マークの剣城は初めての時から俺とは違った。
同じ初心者なのに、俺だけがこの行為を攻めあぐねている。
未だにどう攻略すればいいかその手がかりさえ見当たらない。


「んっ、…はぁ、ん、…っ」

今まで生きてきてこんな事初めてだ。
勉強だって特別出来る方ではないが、先生が何を言ってるか分からないという経験なんて無い。
運動だってルールと基礎の動きさえ教えてもらえればどんなスポーツだってある程度は何でも出来るようになった。
どんな事だって「こうやればいい」っていうお手本や「こうしたい」という俺の脳内のシミュレーションが現実と一致しない事なんて無かった。

でも「セックス」は違う。

いくら「こうすればいい」っていうハウツー本やらネットの知識を集めても駄目。
どんなに俺が「こうしたい」って思ってても思い通りになんて全くならない。



「…ぁ、やっ、…ちょっ、ちょっと待…ッ、ん、んんっ、…やだっ、て!剣城ぃ」

俺はキスをしながら俺の方に体重を掛けてきた剣城の胸をドンドンと叩いた。
剣城が少し顔を離してくれた隙にサッと身体を引く。

うわ、怖。
なんだコレ、なんで俺、キスしただけなのに知らない間にベルトが外れて、あまつさえホックまでもが外れてるんだ?
このままなし崩しに最後までされてしまうところだったのか。
全く油断も隙もないとはこの事だ。

もう!本当にセックスのこういうところが嫌だ。

というか、そもそも剣城が『去年のホーリーロード決勝の映像、俺、見てないです』とか言うから部から借りて一緒に見てたのに、なんで俺の解説からいきなりキスになるんだ?
まずそこからして謎だ。
折角神童の「神のタクト」が決まってここから雷門の怒涛の攻めが始まるところだったのに。
俺はキスしたいって雰囲気なんて微塵も出していなかったはずだ。
むしろ映像に夢中になっていた。
それなのに気付いたらすぐ横に剣城の顔があって。
あっ、と思ったらキスされてて。
んん?と思ったら下唇を甘噛みされて、えっ!と思ったら剣城の舌が俺の口の中に侵入していた。
で、俺が判ってるのはここまで。
だって俺の口の中に剣城の舌が這入ってきちゃうと、もうそれだけで頭がいっぱいになってしまってそれどころじゃない。
剣城にしがみ付いていないとちゃんとソファに座ってもいられない。
冗談じゃなく、前に一度立ったまま不意打ちでキスされて、腰砕けになった俺が傍にあった棚を床に崩れる際に一緒に倒すという失態を犯した事がある。
それ以来、俺はキスされる時は剣城にしがみ付くようにしている。
だから俺の頭の中は既に「倒れないように剣城にしがみ付け!」という考えでいっぱいなのに、更に次から次に俺の口の中の気持ちイイところを発掘していく剣城の舌の事まで考えないとならない。
サッカーをしてる時ならディフェンスをしながら複数で攻めてきている敵のフォーメーションをチェックして更に味方の位置まで把握する事も可能なのに、キスの最中だと二つの事を同時に考えるのさえ俺には無理だ。
出来ればベッドの上とか床の上とか周囲に壊れるものの無い、安全の確保された万全の体制でキスに臨みたい。
そうじゃないならキスの時に舌を入れないで欲しい。
そう思って最近では不意打ちのキスの時は、俺はぎゅっと口を固く結んでいる。
それなのに剣城は俺の努力をあざ笑うかのように舌をねじ込む技を繰り出してくる。
この前は上唇を舌で舐められ、唇が緩んだ隙に侵入を許してしまった。
前回の失敗を踏まえ、密かに備えていたっていうのに、今日は下唇を甘噛みという新技を披露してきた。
結果は俺の惨敗。
今回も呆気なく侵入を許してしまった。
こういう時だけは剣城の陰で人知れず努力する性格が憎くなる。

俺は息を整えながら乱れた着衣をきちんと元に戻す。
このまま流される訳にはいかないんだ。


「まったく…。お前の為にわざわざ音無先生から借りてきたんだぞ。
見ないなら消すからな」

見過ごした神童の活躍シーンを見る為に小言を言いながらDVDを巻き戻す。

本当に全くだ。
今日こそは、と意気込んで今回のおうちデートに臨んだというのに出鼻を挫かれてしまった。
DVDを見終わったら、俺の部屋に行って新しいシーツに替えて準備万端に整えてあるベッドで俺の思い描くとおりのセックスを今日こそする予定だったのに。


今日こそは気付いたら半裸で、気付いたら全身愛撫されてて、気付いたら俺が女役になっているといういつものセックスから脱却してやる!
そもそも何の相談も無しに俺が女役になってること事態がおかしい。
それもこれも俺がセックスが始まると前後不覚になってしまうのが駄目なんだと思う。
剣城に触られると頭が真っ白になってしまって、結局はいつも剣城の良いようにされてしまっている。
本当は俺だって男として剣城を気持ちよくさせたい。
今の状況を心から受け入れている訳では無いんだってとこを分かって欲しい。

だから今日は剣城の与えてくれるキスも優しい手も一切拒否だ。
感じてしまって飛んでしまう訳にはいかないから、いつも以上に強い気持ちで断固拒否しなくてはならない。


今日こそ!
今日こそは、俺が剣城を心行くまで可愛がり倒してやる!!

俺は確固とした決意で、DVDのリモコンを操作した。




 
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