木漏れ日の中で。

□五話
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今日の授業はひとまず終わった。
これから一時間は昼休憩だ。
家が近いものは一度帰って昼食をとるが、俺は往復すると時間が無くなるため、弁当を持って来ている。
いつもは晋助と、断じて仲良くと言う訳ではないが、一緒に食べている。

「おい、晋助」

机に額を押し付けて、かなり堂々と居眠りをしている背中に拳を軽く叩きつける。
文字にはおこせないような変な声を出して、晋助がのろのろと体を上げた。

「いってーな……んだよヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ。それはそうと、晋助。行くぞ」
「あん?どこにだよ。弁当食うならここでいいじゃねーか」
「違う。千影に声かけてみるぞ」
「……なんでてめーはいちいちめんどくせーことに首突っ込みたがんだよ」

あからさまに不機嫌全開で眉根を寄せる晋助は、千影が一人で教本を片付けているのを横目で見ている。
だが、そんな晋助もやはり突然やってきた新参者には多少なりとも興味があるようで、

「フン、仕方ねーな」

俺が説得する必要もなく行く気になったようだ。




「おい、千影」

俺は、なぜかはわからないがくしゃみを連発している千影に声をかけた。

「っぐしゅ!……なんだ、小太郎っじゅん!!」
「……お前、誰かが噂してんじゃね?」

晋助が、俺の後ろからぼそりと呟く。
ここで素直に大丈夫かと聞けないのがコイツだ。

「それもあながち間違って……ぐじゅっ!いないのかもしれない。
まぁ突然来た奴っぐしん!しかも女が漢詩すらすら読んだりしたら、醜い誰かのひがみの元……ぐじゅっ!だろうからな。
うかつだっぐじゅん!……はぁ」
「お前、ソレ自分で言うか」
「で、何か用か」

くしゃみを落ち着かせて、涙を拭いながら俺たちを見るその蒼い瞳に、表情は浮かんでいなかった。

「……お前さ、昼飯どうすんだよ」

しぶしぶと言った様子で晋助が言葉を紡いだ。
千影は、しばらくじっと固まったまま微動だにせず、沈黙していた。
そろそろ晋助の機嫌が悪くなってきて、その眉間にうっすら皺が寄り始めたころ。
千影の手がゆっくりと上がり、人差し指がその名の通り、晋助の鼻先に向かって、ぴんと差し出された。

「晋助」
「……は」
「名前。合ってるだろう?」
「そう、だけど」
「名字は」
「……高杉」
「高杉晋助、か。わかった」
「いや、ちょ、待っ、わかったじゃ……」

晋助は訳が分からず混乱気味だったが、千影はそれだけ言うと納得したらしく、うんうん、と満足そうに頷いた。
やっぱりコイツ、少し変な奴だと思う。





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