ちぇんじ!
□第一話
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ある晴れた春の日の朝
私、黒崎真琴はコンビニへと向かっていた。
***第一話***
鼻唄混じりに見慣れた住宅街を歩く。
朝と言うこともあり、元々人通りの少ない道には真琴一人しか歩いていない。
近所のコンビニまでの用なので真琴はパーカーにジャージとかなりラフな格好である。
さらに言えば、パーカーは間違えて男性用のMサイズを買ってしまったため、袖口は折らなければならないほど大きい。
着ないのは勿体無いし部屋着程度なら着ても問題無いよね、と考え今ではコンビニまでなら全く気にせず着て出掛けるほど慣れた。
「……?」
真琴は道の先に珍しいものを見た。
露店だ。
まだ駅の近くなら人も多いし居てもさほどおかしくないのだが、真琴の歩いている道は住宅街の中でも駅から離れている方だから人通りがかなり少ない。
こんな所では売れる事など無いだろう。
真琴はゆっくりと露店の前を通過――しようと思って立ち止まった。
露店にはアクセサリー類がいくつか並べられていた。
そのなかのある指輪に目が止まった。
中央に大きめの無色透明な石を挟んで、左右に赤と青の月の形をした小さな石がはめ込まれている。
少し太めのミドルフィンガーリングでそれなりに細やかな装飾が施されていたが、まあ普通にありそうな物だった。
だが、何故か、惹かれるものがあった。
「……試しに、着けてみる?」
不意に声を掛けられて少し驚いた。
露店の主は深くフードを被って顔が見えなかったが、声色からして女性だろう。
高めの声からけっこう若い人だと思う。
「え、あの……でも……私、買うお金持ってきてないですから…」
「良いよ、少しくらい」
そう言って彼女はおもむろに指輪を差し出した。
真琴は戸惑いつつも指輪を受け取り、少し眺めてから右手の中指にはめてみた。
サイズがぴったりすぎて驚いた。
まるでちゃんと測って選んだものみたいだ。
改めてリングをよく見てみると、何か文字のようなものが彫られていた。
暗くて見えづらい。
光にかざしてよく見ようとした時、指輪が陽光を強く反射した。
眩んで目の前が真っ白になる。
目を下方に背けたとき、露店の彼女は、薄く笑みを浮かべていた。
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