ちぇんじ!

□第一話
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「う……あ、あれ?」


目眩と共に目を瞑り、再び目を開けたとき、辺りは白に囲まれていた。
陽光でまだ目をやられているのかと思い、目を擦ってからもう一度辺りを見回す。
やはり、真っ白の空間のままだった。


「なに、これ……」


上も下も、右も左もわからない。
無重力の世界みたいだ。
なんだかふわふわと浮いている。

夢でも見ているのかと思って頬をつねってみた。


「……痛くなっ、いったー!」

「あっはは!何やってるんだいキミはー?」

「え!?だ、誰……?」



思いっきりつねってしまったためヒリヒリと痛む頬を擦りながら、突如現れた少女を見上げた。



「ボクかい?ボクは譚(カタル)!語り部だよ!」

「…語り部?」

「物語を語る者のことさ。昔話、神話、歴史…様々な伝承に、現代にある小説、コミックス。ボクは全てを網羅して世界一の語り部を目指しているんだよ!」

「そ、そう……」



真琴は彼女__カタルの勢いに圧倒され、苦笑いを浮かべた。
不思議な少女だ。と、真琴は思った。人並みに友達が居る真琴にとって、初めて見るタイプだった。正直このテンションについて行けなかった。



「で、キミは誰?」

「……あ!え、えっと、黒崎 真琴です…」

「真琴かーよろしく〜」



カタルは真琴の手をとって握手した。ブンブンと勢いよく振り回されて痛い。



「じゃあ早速本題に移ろうか!
真琴はどの世界に行きたい?」

「…えーっと…どういう事?ですか?」

「えーこの空気を察しておくれよー…もしかして、空気読めない子?」

「しっ、失礼な!!普通に読める方だもん!!」



初対面であるにも関わらず心にぐさぐさ刺さる言葉を発するカタルに、真琴はついムキになって反論した。真琴は羞恥心で頬を赤らめてカタルを睨みつけるが、カタルは気にも留めずに話を続けた。



「真琴、キミは選ばれたんだ。好きな世界に行くことが出来る"旅人"に。指輪が光ったのがその証拠さ。
キミには権利がある。別世界に旅立つ権利がね。
あ、でも大丈夫!ボクがキミの物語を語り終わったらちゃんと元の世界に帰してあげるから!」

「え?え??」



次々と訳のわからない言葉を言われ戸惑いを隠し切れない真琴に、カタルはもう一度尋ねた。



「さあ、決めて。キミが行きたい場所を。見たい物、聞きたい事。全部ボクに教えておくれよ!」



カタルの真っ直ぐな瞳に、真琴は目を奪われた。
彼女の瞳から見える感情はただつ__好奇心。
カタルは本当に、物語を語りたいだけなのだ。



「……何で…私、なんですか…?」

「ん?何がかな?」



以前、友人が話していたのを耳にしたことがある。

"異世界トリップ"

なんでも、漫画やアニメの世界に入ってしまうらしい。
入った先で、その作品のキャラクターと仲良くなったり、はたまた恋人にまで発展したりするそうだ。
その時真琴は話について行けなかったが、友人達が「トリップしたい」と楽しげに話していたのを見ていた。

だが、それは__



「だって…私は別に今いる世界に不満はないから…」

「……それで?」

「私以外に、もっと適任がいると思う!別の世界に行きたいって、心から思ってる人がいると思うから!
……どうして、十分幸せな私が他の世界にいく必要があるの…?」



真琴はカタルの瞳を真っ直ぐ見詰めて返答を待った。
カタルはしばらく吃驚した様な、悲しいような、複雑な表情をしていた。
そうして、ふっと笑い、こう言った。


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