王子と王女と婚姻話
□第十五話
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ミシェルはよく使用人に世話をされる。
それはミシェルが王族だからといった理由だけではなく、普段から倹約主義を発揮するからだ。
服装はシンプル。化粧は申し訳程度の薄化粧。髪飾りは国の名産でもある繊細な刺繍が施されているが人からもらったもので自分からねだった物ではない。
以前のミシェルとルシアの会話の一部を紹介する。
『別にレースなんて高級なもの使わなくて良いと思うんです。
刺繍だって綺麗だと思うのですが、そんなに必要無いと思うんです。
つまり、服なんて無地のワンピース一枚で十分なんですよ。』
『女の台詞とは思えねえよ。』
ルシアの言葉はもっともである。
しかしミシェルもオシャレに着飾る事が嫌いなわけではない。
やはり女なので綺麗な物も可愛い物も大好きだ。
しかしミシェルの持っている財産は主に国民からの税金だ。
公共の物を私欲のために使う事に抵抗があるからこその性格だろう。
「お疲れさまでございました、ミシェル様。どうぞ鏡をごらん下さいませ。」
マルトリッツ家の使用人ってすごく有能です。
行動にまるで無駄が無く、手際が良く、仕上がりが完璧です。
なんでこんなにも褒めるのかって?それは今鏡を見て思わず思ってしまったからです。
(え、誰この人…。)
って。
ミシェルは鏡を見て振り返り、また鏡を見て
振り返る。
(私の後ろって誰もいないよね。というか鏡に私が映って無いんですが?)
「本当にお美しいですわ、ミシェル様。」
満足そうに溜息をつく使用人の言葉に、まさかと思っていたがこの鏡に映っているのは…
「こ、これが…私…ですか?」
「左様でございます。」
よくもまあこれほどに化けたものだ。
いつもはただブラシで梳かすだけの髪はアップされ綺麗な細工が施された髪飾りがついている。
服もいつものシンプルなデザインではなく、レースをふんだんに使った豪華なドレスで、ファーのついた上着を着させられる。
そして顔はほぼ別人だった。
化粧が濃いわけではない。あくまでナチュラルメイクだ。
それなのに肌はいつも以上に血色が良く見える。目元はぱっちりして見える。唇は艶やかな桃色のグロスがつけられている。
総じて見れば、普段のミシェルがどれだけ見た目にこだわらなかったかが良く分かる。
「ミシェル様の肌はとても綺麗でしたのであまり手は加えず、自然体にいたしました。」
「へ、へえ…ありがとう。」
それでも別人に見えるのが不思議だ。
高度なテクニックを持っているんだろう。
「さあミシェル様、エリク殿下とルシア殿下がお待ちですので戻りましょう。」
「は、はい!」
「きっと驚かれますわ。」微笑む使用人に言われた台詞に、思わずドキッとする。
この姿を見て、ルシアはどう思うのだろう__
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