王子と王女と婚姻話
□最終話
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***ミシェル視点***
ミシェルの熱が引くのに3日かかった。
いつもなら1日しっかり休めば治るような熱なのにこれほど時間がかかったのは、ずっと気持が固まらずに悩んでいたからだろう。
そしてあの日から5日が経った今日、ミシェルはファザーンに来ていた。
兄が(勝手に)ルシアと約束してしまったからだ。
きっとこのままだといつまで経っても決心が出来ないと考えたのだろう。
(まあ、そのおかげで覚悟が出来たのだけど……)
高鳴る胸を押さえてふぅっと深呼吸する。
落ち着かせようにもなかなか緊張は解れないもので
(ちゃんと話せるかな……)
一抹の不安を胸に、ルシアが現れるのを待つ。
すると、少し遠くからオレンジに近い金色が見えて
「あ………る、ルシア…」
「…ミシェル……」
目を合わせると緊張と不安で思わず視線を外してしまった。
しばらくの沈黙
ミシェルが思い切って顔を上げたと同時にルシアも何か言いたげに顔を上げた。
どちらも口を開いては閉じて、全く先に進まないかと思った。
しかし、ルシアが先に声を上げた。
「あ、あのさ…俺、言いたいことがあるんだ…。」
「待って…!私に先に話させて…お願い…。」
思わず声を上げた。
何か嫌な予感が__自分の覚悟をうやむやにされてしまうような__そんな予感がした。
じっと目を見て訴えていると、ルシアは降参したように手を上げた。
「…あ、あのね……まずは、先日…助けてくれて…ありがとうございます。
それと…その時の事…」
それだけ言うとルシアはピタリと動きが止まった。
「っミシェル!その事は…」
「聞いて!……覚悟、してきたの…。」
どくどくといつもの倍は早い鼓動を抑え、ふうっと息を吐く。
大丈夫
言うんだ
「私…は…
ルシアの事……
好きだよ。」
不安に押しつぶされそうになるのを必死に堪えて、ちゃんとルシアの目を見て、言った。
ルシアは茫然とミシェルを見ていて、ミシェルは震える手をぎゅっと握ってルシアの反応をじっと待つ。
しばらく沈黙が続き、先に口を開いたのは、ミシェルだった。
「…あの、聞いてました…?」
ルシアはぼうっとしていたからか、びくりと肩を震わせた。
一拍置いて、ぽつりとつぶやいた。
「…俺を、同情して…なのか?」
「違う!!」
強く、はっきりと言った。
ルシアが言ったその言葉に、少しの怒りと苛立ち、そして…悲しみが胸を渦巻いた。
(同情なんかじゃないよ…私は…本当に…)
「確かに…今思えばこの気持ちがはっきりしてきたのは、あの結婚式の時だけど…
でもっでもね、ルシアと一緒にいる中で、沢山の"楽しさ"を教えてもらった…。
ルシアが急にいなくなってしまった時、すごく寂しかった…悲しかった…
ルシアが見つかった時、すごく安心した…嬉しかった…
でね、ティアナの…結婚式の時…つらそうに見つめているルシアを見て、苦しくなった…」
ぽつりぽつりと思いだしながら呟いていく中で、だんだんと大きくなっていくルシアの存在に気付く。
「一緒に街を歩いて、素敵なプレゼントを頂いて、本当に嬉しくて…幸せな気持ちでいっぱいになった…
エリク殿下に招いて頂いた時、私化粧をされた自分を見て、真っ先に思ったんです。この姿を見て、ルシアはどう思うかなって。
褒めてくれた時、すっごく嬉しかった…
お兄様に会った時も、あの…その……"許嫁"って言ってくれた時…恥ずかしくてつい怒ったような口調になってしまったけれど、嬉しかったんです。
…ただ、私の夢を応援してくれた時…何故か悲しくなりました…
どうしてかなって考えてて、それでも答えが見つからなくて…
この5日間必死に考えました。それで、1つの結論にたどり着いたんです。
私は、ルシアのことが…"好き"なんだって…。
その事を当てはめてみたら、ぴったりはまったんです。それからは案外すんなり理解できました。
……私は、一時の感情でこんなこと言いません。
だから、本気で答えて欲しいんです。」
まっすぐ目を見つめて答えを待つ。
やはり不安になって手が震えるがぎゅっと握りしめて耐える。
きっと5秒程度の沈黙だったのだろうけど、私にはずっと長く感じた。
呆然と固まっていたルシアがはっとして、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「お、お前……
…自分で何言ったかちゃんと分かってるのかよ…」
ルシアは顔を手で覆い隠してぼそっと呟いた。
ミシェルは少し考え__ルシアよりも顔を真っ赤にした。
「あ、あれ…!?わ、私何を…い、言わなくても良い事まで………」
思い出していくうちにますます赤みを増していく頬を両手で隠す。
(は、恥ずかしい…穴があったら入りたい…!!)
口に出してしまったことを若干後悔しつつあるミシェルにルシアは近づき、小さな、しかしはっきりとした声で述べた。
「…俺も、ミシェルが好きだ。」
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