ガッデム

□3、『巨乳美女』
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「誰か喧嘩でもしてるんか?」

「声は男と女だよ。……まさかまさかの!?」

「学校でっ!? 男の夢じゃねーか…!!」

「僅かに聞こえる声だけでそこまで妄想できるんだね、僕は絶対出来ないな。恥ずかしい」

 3人は現場――昇降口に到着。噂の男女はクラスメイトの園原杏里、そして矢霧誠二。もろだしと目が合った杏里はそそくさと玄関へ逃げていった。

「矢霧くんてば入学して早々やるぅ〜。何々、彼女さんだったり?」

 正臣ともろだしが道を塞ぎ、誠二を通せんぼした。迷惑そうに顔を歪める誠二、少し下がって関係なさそうに見ている帝人に目を向けたが逸らされた。
 そんなやり取りを無視し、前に出た正臣。

「お前いいガタイしてんなぁ。よし、ナンパに行こう!」
「行こう!!」

 後に続いたもろだし。
「はあ?」と帝人と誠二は声を揃えたが、二人には届かない。
 正臣は背が高い奴がいた方がいいと主張する。彼女がいると断ろうとしたが、んなもん関係無いよと一刀両断される。

「愛だよ」

『はい?』

 ゴールの見えない口論の流れを変えた一言。彼女は裏切れても愛は裏切れない。さっきまで聞く耳持たずだった二人はその言葉に豆鉄砲をくらったかのような顔をした。
 強引な誘いもやっと落ち着き、誠二は教室へと向かっていった。

「お前らのクラスも、全然温度高いじゃんよ」

「うん……そうみたい」

「惚気けられただけでしょ、あれ」


***


 ナンパが成功するはずもなく、拗ねた正臣は自棄酒ならぬ自棄ナンパの旅に出た。
 最初こそノっていたもろだしもさすがに疲れ、帝人と共に帰ろうとしていた。

「正臣は残念イケメンなのに、帝人ちゃんってばくーるびゅーちーねぇ」

 貶しつつフォローしつつ。平仮名にしか聞こえない帝人への褒め言葉は、幼稚園児に話しかけるような言葉遣いだった。しかも顔はにへにへとだらしなく緩んでいた

「はいはい、アホらしい顔に拍車がかかってるよ」

 新しく出来た友人の扱いをマスターした帝人は、そのラブコールを軽くあしらう。ぶっすーとむくれるのも無視だ。そんな調子で60階通りの路地を通り過ぎようとした時。

「あれ、園原さんじゃん」

 路地の奥をよく見れば、先程見たおかっぱ巨乳――杏里がいた。
 このボヤきには興味を持った帝人は、もろだしの後ろから覗いてみた。どこからどう見ても友人との会話を楽しむ女子高生達ではなく、杏里は来良生に囲まれていた。
 
「どしたの?」

 杏里を見てオドオドしている帝人。恐らく助けに入ろうか迷っているのだろう。だが、もろだしは、その様子が面白くない。ついさっきまで自分に向かっていた意識が――よく考えればそうだったか?――取られた気がして。ぶっすータイムその2。帝人は杏里を、もろだしは帝人を見ているという三角図ができあがっていた。
 それを邪魔するように、二人の肩に手が置かれた。

『!?』

「イジメ? やめさせに行くつもりなんだ? 偉いね」

 バッと振り向くと、そこにいたのは折原臨也。もろだしの方にあった手を外し両方を帝人に乗せると、杏里達がいる方へと押し始めた。

「あ、帝人っ」

「やややっやあ、園原さん、偶然だねねねねねうわあああああっちょっと!」

 すぐに女子達の元に着いてしまい、そのうち一人に睨みつけられる。それは先頭の帝人だけではなく、押してきた臨也と後ろから追ってきたもろだしも含まれていた。
 
「イジメはかっこ悪いよ、よくないねえ、実によくない」

「おっさんには関係ねえだろ!」

 アワアワしていたもろだしだったが、この発言に凍ったかのように固まった。暫くして「ブハッ!!!」と吹き出すと、笑い転げた。
――おっさんッッッ、おっさんだってw さすがの臨也さんでも一瞬ポーカーフェイス崩れてたしっ。そりゃそうだよね、23で、しかも自分は眉目秀麗と自負していておっさんて言われるなんて思わないよね!!

「そう、関係無い」

「関係無いから、君達がここで殴られようがのたれ死のうが関係無い事さ。俺が君達を殴っても、俺が君達を刺しても、逆に君達がまだ23歳のオレをおっさんと呼ぼうが、君達と俺の無関係は永遠だ。すべての人間は関係していると同時に無関係でもあるんだよ」

 おっさんというワードを聞いてからは、臨也が言った反論も、もろだしには笑いにしかならない。"関係無い"と言おうが、「コイツ、絶対気にしてるッッッ」としか思えないのだ。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 笑いに耐えられず蹲っていたもろだしの意識は、また臨也の笑い声によって戻された。聞いているとだんだん冷静になってきて――引いた。女子高生相手に若干キレてやがる……と呆れた。
 何をしているかと思えば女の子の携帯を踏み潰していた。意外とお高い携帯の機種代。哀れ女子高生A。
 座り込んでいた腰を上げ、怪我は無いかと帝人と杏里の元へ向かったもろだし。しかし二人に声を掛ける前に地面に埋まってしまった。

「もろだし!?」

「ぐふっ……わ、私はもう無理だっ。先に逝ってくれ……グテッ」

「この流れだと、先に逝くのはもろだしの方だね。ただの変換ミスだというのを祈るよ、じゃなきゃ本格的にヤバいよ」

 いきなりポストが飛んできた、臨也に向かって。臨也がそれをよけられるはずもなくポストを喰らい、丁度その前を通ったもろだしも巻き添えで倒れ、下になったもろだしの顔は地面にめり込んでいるように見える。

「し、シズちゃん」

「いーざーやーくーん」

「もろだしさん瀕死状態だよー、エクスポーションかケアルガが必要なんだよー」

 臨也はわざわざもろだしの背中に手をついて立ち上がった。案の定ぐえっと呻いた。
 ド派手に登場したのは歩く喧嘩人形――平和島静雄。臨也を睨みつけ、顔には青筋。臨也も負けじとナイフを取り出した。

「シズちゃんの暴力ってさー、理屈も言葉も道理も通じないから苦手なんだよ」

「ひッ……」

 杏里の怯えた声が聞こえた。池袋に住み慣れた者なら日常茶飯事の事なので、もろだしは臨也と静雄を眺めるだけだった。驚いたのはその後。
 帝人が杏里の手を引いて駆け出した。
 
「じゃ、もろだし。後よろしく」

 捨て台詞を残して。

「ちょ、うっそーん!」

 帝人が先頭だったのが杏里に入れ替わり……道を曲がって消えた。


2012/7/31
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