最小公倍数
□八話
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夢を、見た。
世界で一番嫌いで愛してるあの人が、僕の首を泣きながら絞めている。
(しぬ、のかな…?)
けして強くないその締め付けに、僕は抵抗しなかった。
否、出来なかったのかもしれない。
あの人の泣き顔が酷く愛しくて、細くて折れそうな腕が頼りなさげに見えたからかもしれない。
――ピピピピピ
無機質な電子音で目が覚めた。
けたたましいケータイのアラームを無言で切ると、薄いスウェット姿のまま洗面台まで行き、髪を整える。
何もする気が起きない体を鞭打って、昨日の夜の余り物で朝食を済ました。
…眠い。
インスタントコーヒーを飲んでぼおっとしていると再びケータイがけたたましく鳴った。
……啓吾?
啓吾から電話なんて珍しい、と思いつつ通話ボタンをおした。
「…啓吾?どうしたの?こんな朝早くから」
『お前…今何時だと思ってんだ!?もう一限終わってんぞ?』
……え?
恐る恐る時計を見ると、針は十時をさしていた。
「……もう二限始まるね」
電話越しにため息が聞こえた。
『…大丈夫かよ?何時頃これそう?休みなら越智さんに言っとくし』
呆れ半分、心配半分の声色に思わず頬が緩む。
今朝の夢など、かき消されてしまった。
「お昼頃にはいけると思うから…越智さんには遅刻だって言っといて」
『了解。早めにこいよ?いい雑誌買ったんだ』
「うん、…早めにいくよ」
じゃあ、と電話を切ってから重い腰をあげ、制服へと着替えた。
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