◇OP(PINK HOLIC)◇
□『クラヤミ』
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魂まで飲み込むような新月の海に浮かぶ船は、うちのモビー程ではないがゆうに五百人は乗れる代物だった。
しかも八隻ある船には随分と奮発した大砲が備えられ、景気の良さがうかがえる。
(いくら外面整えても肝心の中身がなきゃア意味ないがな)
八隻のうち主力の三隻に的を絞り、鉤爪の付いたロープを辿って次々に駆け上がる。
最低限の明かりしかない甲板は自分の鼻先が見えないほど暗い。
しかし夜目が利くように訓練を積んだうちの面々は迷うことなく突き進み、あっという間に見張りを仕留めていく。
相手が異変に気付いた頃にはすでに主力船は壊滅。
夜の闇を味方につけたおれたちは百人足らずの戦力であっという間に敵船を落とし、仕上げに敵の砲弾で同士討ちをさせて全ての船を沈めた。
燃える船が海溝に飲まれるのを確認しながら、お宝を積んだボートは白鯨が見えるまでの間に一時賑やかになる。
「サッチ隊長、これ悪魔の実じゃないですか?」
「お、みたいだな」
敵船から拝借したお宝を漁っていた部下が一つの箱を放って寄越した。
開けてみれば確かに悪魔の実らしき果実が納められている。
「コレ、どうすんですか?」
どんな能力が宿るのかは図鑑を見るまでわからないが、食べれば必ず力となる悪魔の実。
うちの船では見つけた者が食っていいことになっている。
しかし最初からおれの選択肢は一つしかない。
手の平にぽんと乗せた異能の実をまじまじと見るうち、ふとおれの頭に愛しい面影が浮かんだ。
「ぷっなあこれ見ろ、マルコだマルコー」
「「「ぶっ」」」
見事なパイナップル型の実に、今にも寝落ちそうな目とぽってりした唇を形どった紙を張りつければ、それを見た部下たちから大爆笑が巻き起こった。
おれの手が天高く翳す、それはまさしくマルコ!(←偽物)
ひーひーと息も絶え絶えにボートの縁やら床やらを叩いて笑い転げる部下に、我ながら自信作とおれも一緒に笑い転げる。
「ちょ、マジで似てる…っ」
「た…隊長、そんなんバレたらまたマルコ隊長に船から蹴り落とされますよ!」
「あっはまーおれは食うつもりないし、このまましばらく飾ったら売って酒代にすっか!」
おれの言葉に「了解!」「飲むぞー」と野太い歓声が上がる。
なかには「絶対蹴っ倒されるに1万ベリー!」と、勢いづいてさらに賑やかさを増す部下たち。
きっと明日の朝の食堂はこのネタでもちきりだろう。
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