‡感謝企画‡

□『本日は晴天なり』
1ページ/3ページ

『本日は晴天なり』



「んー。ルフィ、髪伸びたな」
「そーだなー」
「切るか」
「おうっ!」


 ことのキッカケはいつも長兄と末っ子。

 4つの海とグランドラインを隔てるカームベルトはその名の通りに“凪”である。
 海上を渡るわずかな風で進む船は通常の半分ほどの速度でしかなく、天候も安定している。
 海軍と大型の海王類にさえ遭遇しなければはっきり言って暇だ。


「ん?ドフィ、髪切るの?」
「ああ。ルフィの前髪が目に入りそうな所まで伸びてるからな」


 いそいそと散髪鋏とケープを用意するドフラミンゴの面倒見の良さに、ロシナンテとローが顔を見合わせて微笑みあう。

 それなら、と丸座の椅子を抱えるロシー。
 ローもドレッサーからコームとスプレーボトルを持って甲板に上がった。

 青空の広がる甲板に急遽オープンした理容室。
 鋏を軽快に鳴らしてイメージを固めるドフィの前、お客様であるルフィはロシーの持ってきた椅子に座り、ローにケープを掛けてもらってニコニコと笑っている。


「ドフィ兄、おれも切って!」
「おれも!」
「順番な」
「「はーい!」」


 甲板に集まった兄弟たちに気付いて駆け寄ってきたエースとサボが輪に加わった。
 2人は椅子代わりの木箱に仲良く並んで座る。

 しゃきん、と一際高く鋏が鳴いたかと思うと、ドフィの長い指が掬い上げたルフィの黒髪を銀色の合わせ刃が撫でていく。
 軽やかに鳴くごとにハラハラと伸びた髪が切られ、床に散る。
 この船の中で器用さでは右に出る者のいないドフィらしく、鋏を振るう手捌きに迷いはない。
 うなじを覆うほどだったルフィの髪が見る間に切り揃えられた。


「終わったぞ」
「おー!ぜんぜん目ェ痛くねえ!あんがとドフィ!」
「フッフッ」


 喜んだ末っ子から感謝の言葉と頬っぺたにキスをもらい、長兄も満足げに笑みを弾ませる。


「次はエースだな」
「おう!」


 呼ばれてルフィと入れ替わりに座ったエースがケープをつけてもらう間に前髪はどうで後ろはどうでと注文をいれる。
 注文と言ってもエースも基本的に動きやすさ重視だからこれまでとあまり変わらない。
 それでも恋する少年は少しでも相手に良く見られたい願望を持つものだからと、エースの感情を酌んだドフィが鋏を滑らせながら希望するイメージに近付けていく。

 ややしてケープが外されると癖を活かして長めに整えられた前髪と、すっきりした襟足のエースが出来栄えに満足した顔で椅子から飛び降りた。


「サボはまた全体に短く揃えるのか?」
「うん。じゃないと帽子がおさまり悪いんだ」
「サボは伸ばしても似合うと思うけどなァ。な、エース」
「えっ?! …あ、うん」


 兄弟の中ではドフィと並んでベリーショートのサボ。
 いつも通りで話がまとまりかけたところで乱入したロシーに急に話を振られたエースが、頬を赤く染めながら頷く。


「でもサボの好きなほうがいい、…と思う。どっちも似合うよ」
「そうか?じゃ、次は伸ばしてみようかな」


 エースの似合うという言葉にまんざらでもないサボが自分の髪を指先で摘んで笑った。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ