◇OP(PINK HOLIC)◇

□『誘惑コントラスト』
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『誘惑コントラスト』



 楽しそうに鼻唄歌いながら、ロシナンテはいつものメイクを『向かいの』顔に施す。


「出来たよ」

「フフフッ」


 右目の下にはフラッグ模様。そして耳まで弧を描いた黒いスマイル。

 今日はおれがジョーカーだ。

 代わりにロシーが桃色のコートを羽織り、仕上げに互いのサングラスを掛け合う。

 対面に並ぶと鏡を見るようだ。


 2つ離れた兄弟とはいえ、おれたちは元から他人が見分けられないほどよく似ていた。
 顔立ちやスタイルなどは20歳過ぎたあたりから瓜二つと言ってもいい。
 特に体格は真似しようとして出来るものではないから、やはりこういうのは血の賜物なのだろうと思う。

 イタズラ程度の入れ替わりなら多少は差異も楽しいのだが、ビジネスが関わるとそうはいかない。

 その為にこうして常日頃から一目でわかる特徴的な姿をしているのだ。
 奇抜であればあるほど人は派手な部分に目をとられ、本当に重要な細部の差を見逃す。

 今日の出来に満足して笑っていると、視界に影が落ちて唇が重なる。


「…メイクが落ちる」

「だって可愛いんだもの」


 普段のお前と同じ姿をしてるのに?

 視線で問うてやれば自信たっぷりに頷く弟。


「ドフィはどんな格好しても似合うし、可愛い」


 言いながら再び唇が重なって、舌先でじっとりと右から左へなぞっていく。


「おれに黒は似合わねェだろう」


 唇同士を触れ合わせたまま否定を入れる。

 そう、黒だけは合わない。
 だから弟は黒をずっと選んでいるのだ。


「黒はね、おれが着せたくないんだよ」

「?」


 言われたセリフの意味がわからず、おれの頭の上に疑問符が飛び交う。


「黒は心の白い人が着ちゃダメなんだ。コントラストが綺麗すぎて壊したくなるから」


 …それはファッションをか。
 それとも、おれを、か。


「ああ残念、もう時間だ」


 続きは帰ってからね、と歩み始めた後ろ姿は本来なら一生見ることの出来ない自らの背中。


 とりあえず、入れ替わりは程々にしようと思った。



†終わり†
→次ページに後書き。
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