右脳の見る白昼夢

□2じかんめ。
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そういえば去年もそんなことを思った。

桃井先生との言い争い。…思い出しただけで疲れるなアレは。そんなときも偶々職員室に来て立ち聞きしてしまった常葉が言った。
「疑うことの何がいけない?疑うというのはその人の本質を見極めようとすることだ。たしかに、疑われるというのは相手にしてみれば不快に思うかもしれないが、裏を返せばその人がどういう人間であるか知りたい、理解したいということだ。無条件に信用するというのは、その人がどういう人かはじめから理解する気がないということと同義だとわたしは思う」

そういって常葉は川野先生にクラスの課題を提出して職員室を去った。授業のときは寡黙な生徒かと思っていたが、そうではなかった。
何とも言えない気持ちにさせられた。でも、彼女の言葉は俺の中にストンと入り、気分は落ち着いていた。そのときから俺は“常葉伊瑳”という人間に興味を持った。

またある日の早朝、学校へ向かっていると後ろから声をかけられた。常葉だった。彼女は自然に話しかけてきた。それがはじめての彼女との会話だった。
「おはよう、鈴木先生」
「ああ、おはよう常葉」
「…学年全員の名前と顔を覚えているのか?」「ああ、大体わかるよ。君はA組の常葉伊瑳だろ?」
それからどんな話をしたかはよく覚えていないが、別れ際に言われた何気ない言葉。

「…先生は、きっと、生徒にいまよりも慕われるようになる」

貴方からは、なにか目標や理念のようなものを感じるから。

そう言われた。
俺は認められたかったわけではない。
感謝されたかったわけでもない。
だけど、誰かに面と向かって自分を肯定してもらえたようで。

俺はただ、うれしかった。
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