星のきらめく天空の欠片

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「よーい、」の声につづいて、パァンッっと破裂音が大気を震わせる。

元気よく飛び出したのは、よく知る女の子。
スタートの勢いそのままにぐんぐん加速して1番にゴールテープを切った。


さくらちゃーん、速ーーい!!


やっぱり早いなぁ。
さくらに遅れること2秒ほどでぼくもゴール。
順位は5人中、3位。真ん中だった。
ぼく的には大健闘だった。
本番でコケなくて良かった。

「あやめくん お疲れ様!!」
「ありがとう 利佳」
「あやめくん おかえり!」
「さくらすごく速かった」
「ありがとー」

・・・ぱちぱちぱちっ

拍手の音が近くから聞こえて振り返ると、桃矢とゆきくんがいた。
いま到着したらしい。大きな重箱を手に提げて立っていた。
さくらといっしょにそばに行くとゆきくんが見てたよって、頑張ったねって褒めてくれた。
みんなの前でコケなかったよって報告すると、桃矢がよしよしと頭を撫でてくれた。
うん、ぼく頑張った。
藤隆さんは大学のお仕事が済んだら来てくれるらしい。
休憩になったらみんなでごはんだよって、さくらが言った。
桃矢たちにばいばいして、さくらは部活の演目の準備に、ぼくは自分の持ち場に戻る。
ぼくはみんなのいる席には戻らず救護テントに向かう。
ぼくは先生からの提案で今回臨時の保健委員になった。
けがをした生徒の手当てなどを任されている。
でもみんなとくに怪我もなく、ぼく自身堂々と日陰で休ませてもらえて助かっている。
みんなの心遣いが今日ばかりはありがたいです。
知世も少し離れたテントに居て進行のアナウンスをしている。


さくらたちが跳ねたりくるくる回ったりしている。
バトンもくるくる回ってる。

ふわりふわり。

視界に花びらが映り込む。

たくさんのひとが笑って思い思いに楽しんでいる。

とてもきれいな景色。

瞼の裏、耳の奥。
弾むように。歌うように。
きれいな何かが、踊っている。

くるくる、くるくる。

目の前の光景と、瞼の裏の幻想が、瞬きのたび入れ替わる。

これは、現在(イマ)じゃない。






「ーーあやめくん!」
「・・さくら?・・・あれ、可愛い衣装じゃない・・もう着替えたの?」

演目終わるの早いな。

「ほえぇ?!!え、えっと、もうお昼の時間になったよ!お兄ちゃんたちのところに行こ!!」

なんだか急いでいるみたいで、さくらと知世に手をとられながら救護テントを後にした。








お昼休憩は木之本家のシートに知世も同席している。
お母さんが仕事の都合で遅れているらしい。
こちらも藤隆さんがまだである。
きょうのお弁当は桃矢とゆきくんがつくってきてくれた。
さっきも見たけどすごい高さのお重箱である。
そのほとんどがゆきくんのおなかに消えていくのが何度見ても不思議。

恐縮する知世の横でぼくもどうしていいか分からず緊張する。
そんな僕に桃矢が取り皿に少しずつおにぎりとおかずをよそってくれる。

おにぎりをひと口食べる。おいしい。
ほのかに塩味があって。噛みしめるとほろりとお米がほどけて、じわーと奥歯のあたりから唾液が滲む。
もうひと口、もうひと口。はむりはむりとほおばっていると。ふっと息がもれる音。
横から手が伸びてきてほっぺた触れて、離れる。
顔を向けると指の先にお米の粒がついてて。
桃矢が動いたからお腹空いたよなって。目を細めて。

目がやさしくて。

だから、

「おいしいよ」ってもっとちゃんと言わないと。


「あ、ありがとう。えと・・すごく、おいしい、・・・よ」

伝わった、かな。

下に向けた目をもう一度向けてみる。

「おう」

「いっぱい食えよ」って頭を撫でてくれた。

「っうん!!」

えへへ、伝わった!!

よそってもらったお皿のごはんは他のもすごくおいしいくて、そのあとも何度か口元にご飯粒をつけたことに気づかず。
さらにはその都度とってもらってることにも気づかず。
みんなに温かい目で見られていることにも気づかず、ふやけた顔で食事をつづけた。







これまた桃矢にお茶を淹れてもらっていると、「ごめん、遅れた!!」と藤隆さんがやってきた。

「ごめんね、さくらさん あやめくん」そう言って、ぼくらの頭を撫でてくれる。

ぼくのことも本当の家族のように接してくれるあたたかいひと。

藤隆さんはただ駆けつけてきてくれただけでなく、昨日からつくっていたというゼリーを持ってきていた。

お昼に間に合ってよかったよと、ぼくの手にカップ握らせた。

ひんやりとしてきもちいい。
「ごはんは食べられたかな?」と聞かれこくりと頷く。

つめたくっておいしい。
これも、もうひと口がほしくなる。
さきにおいしいって言いたいけど、もうひと口。

「おいしい、すごく」

おいしいですって言ったら、藤隆さんも桃矢とおんなじ目で笑ってくれた。

どうもありがとう、って。

またつくるね、って。

つめたいけど、ぽかぽか。

しあわせの、味。
 

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