創世の間

□トトロなキミに恋してる。
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桜舞う並木道。
緩やかな、けれど傾斜のある路を進んだ先にわたしの通う高校がある。

この春、第一志望高に合格したわたしは家からは少し遠いこの夢見ヶ丘高校に進学した。
志望動機は見学会のときにこの校舎を見て気に入ったからだ。
洋風建築の校舎は古く、建てられてから長い年月を経ているがそれが趣のある雰囲気を醸しているのだ。
入ってみればカリキュラムもいいし校風も寛容だ。


坂を登りきり校門を抜ける。
校門の先は赤煉瓦の石畳が校舎へとのびている。
今日も革靴で小気味よい音を刻んでいると、前方に思いがけないものを見かけた。

……。

……。

……ハッ。

え、トトロ!!?


子供の夢がつまったあのマスコットキャラクターがこっちを見ていた。


なんで?

よくみるとトトロはリュックで。
どんなかわいい子がそれを背負っているのかと見ていれば……男子だった。

アイタタター。

男子高校生がなんつーファンシーなもん使ってんだ。
冗談キツすぎる。

一体どんなツワモノだよと気になり小走りにあとを追った。
近くまで接近し早歩きで追い越す。
その瞬間に自然を装いお顔を拝見。


足が、止まった。

なにが起きたのかはわからない。
わたしの中を光のようななにかが駆け抜けた。

いま目にしたものを思い出す。
すると、今度は耳の奥から鼓動が鳴り響く。

わけがわからない。
なんだこれは。

一体どうしてしまったんだわたし!?


「おはよー森下…ってどしたの」

中学からの友人(名を森崎という)が声をかけてきた。どうやら一足早く来ていたらしい。

「わからん」
「は」

・・・・

「そりゃキミ、恋ですよ」

一目惚れってヤツですヮ。

「マジか」
「マジだ」

キミは恋の病にかかったのだよ。

「それで?どこのどいつだよ。キミのハートを射止めたというその輩は」
「わからん」
「ここの生徒なんだよな?なんか特徴とかはないの?かっこいい系とか美人とか」

特徴…。

「身長はわたしより低かった。顔は…童顔だった」
「ふむふむ、170センチ以下で童顔、と…他は?」

他?

「…あ、トトロのリュックを背負ってた」
「え」
「え?」
「ちょ、おま、それは…」
「知ってんの?」
「いや、知ってるも何も。この辺で知らないヤツいないし。てか、この近くの中学出身はほとんどそいつ目当てでここ受験してるし。正確にはそいつとそのツレだけど」

「だから今年ここの受験倍率高かったんだよね〜」という森崎に疑問。

「…なんでそんなこと知ってんの」
「いやー、あたしもともとその中学いたし。親の都合で転入したけど、またこっち帰ってくることになったからここ入ったんさ」
「へー」
「というわけで諦めろ」
「は」
「その恋は終わってる」
「な」
「新しい恋を見つけてこい。お前は上の上とまではいかんが中の上くらいある。自信を持て」
「そんな励ましいらん!…って待て待て。なんでそうなる!?」
「わからんか」
「わからん」

「彼は天使なんだ」
「は」
「天使はな妖精さんに恋してるんだ」
「…ん?」

いまなんて?

「だから、有栖川彼方は」

トトロに恋しちゃってんの。

「……」
「……」
「…トトロってあの」
「トトロだ。何処ぞの森に棲息しているという妖精さんだ」

ぺら。

森下が懐から数枚枚の紙を出した。
その紙には

「『夢見る少年を見守る会』?」
「どうしても忘れられんならこれで妥協しとけ」

わたしのはじまったのかもあやふやな恋。

けれど、あの横顔が、あの真っ直ぐな光を宿す眼が忘れられない。
たまらなく惹きつけられる。


桜咲く春。
わたしはトトロを愛する少年に恋をした。
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