右脳の見る白昼夢

□悠久の狭間で星は。
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生まれ変わった場所には前世とは違う“桜”の名をもつひとがいた。
正反対なのにどちらも温かな光をもったひと。
この世界での、ぼくの姉様。
この世界でぼくを大好きでいてくれるただ一人のひと。

最初はだめだった。
二度目はたくさんの人がぼくに好きを教えてくれた。
そして三度目のいまは姉様だけがぼくに温かさを思い出させてくれる。

変わらないぼくの体質。
ぼくのこの両目は二度目のように受け入れられるはずもなく。
人目をはばかるように奥の部屋をあてがわれた。

母様は体が弱かったのかぼくを産んだからか、定かではないが生後まもなく亡くなったらしい。
父様は世間体があるからと、外に出してくれることはなかったけれどぼくを父様なりに気にかけてくれてはいた。一日に一度は姉様と一緒に、ぼくの様子を見に来て必要なものは揃えてくれた。中流階級の家柄であるらしく、言葉を発せられるようになれば読み書きや算盤を学ばせてくれるようになった。
五つを数える頃、父様はぼくに箱庭をくれた。
5坪ほどのそこには1本の桜が植えられている。


・・・・


少し前、姉様に癒しの力が顕現した。どんな怪我も不治の病でも姉様は忽ち治してみせた。
噂はすぐに広がり姉様は有名になられた。

人には過ぎるもの。姉様だから授かった天与のモノ。

父様はそれから人がかわった。父様は姉様をお金儲けに利用し始めた。
姉様の力で得た莫大な金子は父だけでなく姉様とぼくを取り巻くすべてを変えた。

姉様の力でも変わらなかったぼくをみて父様はついに見限った。
新しく建てた屋敷の片隅にさらに塀を構え。その塀のなかに小さい造りの屋敷を置いた。ぼくはそこで暮らすことを命じられた。門から出るには外から開けてもらうしかなく、残りの一生をぼくはここで暮らすのだろう。その塀のなかでもぼくには制限があり相手からは見えぬよう目隠しに布切れを宛がうよういわれた。
ぼくが連れていかれる前、姉様は父様を止めようとしてくれたけど父様が聞き入れてくれることはなく。泣く姉様にぼくはお別れを言うこともできず使用人に連れていかれた。
まだ小さいからというお情けなのか世話人はつけてくれたらしく衣食住には困らない。
ただ使用人は冷たかった。基本無関心なのに気に入らないことがあると折檻された。
当然だ。この先当主になり家督を継ぐことなどできない、将来役に立つことなんてないぼくの存在は本当にお荷物以外のなにものでもない。
この屋敷の外では乞うても食べられない人がいる。
ただ生きることが困難な世界が広がっている。
歴史でしか知りえなかった時代のなかにいま、ぼくはいる。


・・・・


今は新緑の時期。まだその樹は幼く、立派な姿を見られるのは数年後だろう。
だけど。
桜の花が恋しかった。
いつもぼくを勇気づけてくれた彼女。
最後に泣かせてしまった姉様。

――泣かないで

その晩、月の下でぼくは誇らしげに咲き乱れる薄紅をみて思った。


ここは寂しい。ここはひとりぼっち。

ここは寒いよ。

さくら、姉様。
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