星のきらめく天空の欠片

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「おかえり」

外は今日も暑かったみたいだから夕飯前にお風呂を進めようとすると、さくらが抱きついてきた。

「ど、どうしたの?さくら?」

なにか学校で大変なことでもあったのかな?
ぼくはさくらの背中をとんとんたたく。

「・・・うん、だいじょうぶ」

ありがとう あやめくん。

そういうといつもの明るいさくらにもどって2階に上がっていった。
よくわからないけど大丈夫らしい。

着替えてきた藤隆さんが夕飯の準備をはじめていたのでお手伝いをする。
今日のお夕飯は冷や麦。
冷や麦は食べたことがない。・・・素麺と何が違うんだろ?
でも麺類はすきだから楽しみだ。
薬味や麺つゆをテーブルに並べてると、さくらがお風呂から上がってきた。

「わーい!冷や麦――!」
「さくらさん麺類好きだものね」
「うん!」

さくらも麺類が好きみたい。
はじめての冷や麦はおいしかった。
つるつるとした麺はひんやりしていてのどごしがいい。8月も終盤にさしかかっているのに落ちつかない暑さに、やっぱりぼくのからだはまいっているらしい。
もうすぐ学校もはじまるし少しぐらい外に出た方がいいだろうか。
いつもより進む箸を見つめぼんやりしていると隣りから「あ」と言う声が上がる。
話題は今日飾られている写真についてだ。
写真に目を向ける。
そこには1人の女性が映っている。
今日もきれいな容姿にやさしい眼差しで微笑む女性は木之本撫子さん。
藤隆さんのお嫁さんで、さくらと桃矢のお母さん。
彼女はすでにこの世にはいない。ぼくがこの家にくるよりずっと前に病気で亡くなってしまったらしい。
藤隆さんは毎日彼女の写真を取り替えては食卓に飾っている。この家では彼女は今も大事に思われている。

あの家で、あの世界で、ぼくは疎まれる存在でしかなかった。
ぼくがいなくなったことで家族は、ぼくに関わった人たちはいまどうしてるだろう。
もうだれも苦しんでいないだろうか。
もうだれも辛い思いをしていないだろうか。
もうあなたは泣いていないだろうか――母さん。
独り苦しむあなたを、元凶であるぼくはどうすることもできなかった。
ただただ、苦しめるだけだった。


父娘の会話を聞きながら、あの人も、あの人の大事な人と笑っていてくれたらと願った。
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