右脳の見る白昼夢
□地獄堂霊界通信
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囲われた"と思った時には、わたしはそこにいなかった。
瞬きをすると、目の前には一軒の店。
“薬”と書かれた暖簾がかけられている。
屋号には「極楽堂」。なにやらあやしさ満点である。
少し考えて、しかし他に頼るあてもない。
とりあえずここがどういう場所なのか訪ねよう。
近づこうとした矢先、「入って来い」との声が。
向こうが先に気づいてくれたらしい。中に入ると左右に棚が並び、たしかに薬になるものが置かれている。
ただしホルマリン漬けをそのまま置くのは如何なものか。店の外観とあいまって……雰囲気がなんともいえない。
その中央に声の主と思しき翁はいた。
「あなたが此処の店主ですか」
「そうだ。おまえはここの者ではないな」
「はい。ですがわたしの意志では戻れない」
「・・・奥にひとつ部屋を用意してやろう」
「ここに置いてくださるのですか?」
「行く宛もないだろう。・・・ここについてはわかっているか?」
「なにも。わたしはただ、帰れる時を待つだけです。・・・わたしがここでなにかをすることに意味はないのだと思う。わたしはここにいるだけです」
「・・・ならば学校にでも通うか?」
「・・・わたしには戸籍がありません。学校に通うなら戸籍が必要でしょう?」
「手続きはしておいてやろう。・・・ところでおまえの名前は?」
「失礼しました。わたしの名は、」
きみに名を贈ろう。きみの名は――…
「――春華、柊 春華です」
(しばらくご厄介になります)
(『厄介』な・・・それはどうかのぅ)
三人悪と出会うほんの少しまえのはなし。