右脳の見る白昼夢

□1じかんめ。
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レッスン1
クラスのTHE 健康優良児のバタフライナイフ事件。


足子先生の強引な多数決。小川蘇美と常葉伊瑳だけ手を上げていないことに鈴木先生が気づく。
「足子先生、全員一致じゃありませんよ。…小川と常葉が上げていません」
「何で小川さんと常葉さんは信じてあげないのかな?」
「何でみんなは信じられるんですか?」
「藤山くんはクラスメイトでしょ?」
「クラスメイトだからというのは信じる理由にはならないから」
「そう。自分の考えを持つことは大事よ。でもこれは多数決だから。…常葉さんは?どうして藤山くんを信じてあげないの?」
足子先生は小川からは訊くことを止め、常葉に話を振った。
常葉 伊瑳。中世的美貌。論理的思考型。多角的な視点で物事を処理する。スペシャルファクターの小川に対し、常葉の存在はスペシャルコンダクター。彼女の言葉は淡々とした口調ながら力を持っており、その発言はなぜか皆が注目する。
(常葉、お前はどう出る?)
先ほどまで小川蘇美に集中していたみんなの目が、窓側の一番後ろの席――常葉伊瑳に移る。常葉はわからないくらいに小さくため息をつくと席を立ち、教卓からは伏せられていた切れ長の目が俺を捉えた。
「……状況証拠では藤山の犯行と思われる。だが、藤山がその犯行を行ったと証明できるものや証言等は現段階では不明だ。…まあ、犯行を行なっていないとも証明できないが」
(よし、常葉はこの事件の流れを見極めている。いいぞ、常葉。さすが最終兵器…!!)
そして一度目を伏せ、今度は足子先生の目を見据え、口を開いた。
「そして、この問題を「藤山を信じるか否か多数決で決める」というかたちで終わらせようとする足子先生の考えにわたしは賛同出来ない。それでは問題を解決したことにはならない。そもそもなぜ多数決なんだ?」
貴女は和を大事にする人なのかもしれないが、問題に目をつぶったからと言って問題は消えたりしない。むしろ貴女が大事にしたい和にしこりが出来てしまうことになる。
「何もわからないままこの問題を放棄してしまっていいのか。そのクッションを裂かれてしまった子の気持ちは?一方的に私物を壊され謝罪も何もない。なぜ犯人はクッションを裂いたのか。なにが犯人にそうさせてしまったのか。また、足子先生。貴女はナイフの持ち主であった藤山を含め、わたしたちA組の人間を疑って授業中にも関わらずこのクラスで犯人捜しを行なった。だが、鈴木先生の授業を中断してまで行なった犯人探しは誰の犯行か特定できず。本当にそれでいいのか?藤山もわたしたちも疑われたまま。それではあまりに無責任だとわたしは思う」

「――だからわたしは「藤山を信じる」ことに賛成しなかったのではない。この『多数決』に参加していなかっただけだ」

常葉が行動を起こしてからクラスは静まり返っている。聞いたそばから忘れる者も、常葉の言葉は耳に残る。密かに常葉をリスペクトする存在がいることを俺は知っている(何を隠そう俺もその一人だ)。そいつらは完全に常葉の作りだした空間に酔っている。酔っていない者も空気には呑まれている。
自分の言いたかったことをすべて言い終えたのか、常葉は足子先生から俺に視線を向ける。
これは「あとは頼んだ」というバトンタッチだな。俺は常葉に頷き「座っていいぞ、常葉」と声をかけた。
人の意見にも状況にも流されることなく常に見極めようとする常葉。あらためて思うがお前は一体何者なんだ、常葉よ。しかし、新学期一発目でいきなり助けられてしまった。やっぱお前をA組に出来て良かった。そう、常葉は悪くないんだ。足子先生の勢いにのまれていたクラスに、今の問題を明確化した。だが、足子先生の過失まで問いただすのはどうなんだ。たしかに間違っていないのだろうが、これはこれで足子先生をどう処理しろと。かなり動揺しているようだ。これだけ言った常葉にぜんぜん言い返さない。
とりあえず今日はお帰りいただいた。


翌日、岬が問題を起こした。
まったく、次から次へと…。
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