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□君だけを
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「ワシは三成が好きだ。」
腕を掴まれて振り向きざま、突然そう言われた。
「お前はワシを想ってはいないだろう。
だが…、ワシは今までお前を見てきて、愛しいと思った。
お前が欲しいと思った。」
そう言う家康の目が真剣そのもので、思わず怯んだ。
「……なっ、何を言って……っ!?」
どうなっているんだと考えていると、掴まれた手が強い力で引かれた。
「っ!?」
気付けば、家三のがっしりとした腕に抱きしめられていた。
はっ、と我にかえって、身をよじった。
「はっ…放せっ……!!」
しかし、私の細腕では奴にかなうはずもなかった。
奴の胸に顔をうめていると、体温や匂いが直接伝わってきて、急に恥ずかしくなった。
「返事は、三成の心が整理できるまで待っているから。考えてくれ…。」
奴の手が放れたと思うと、顎を上に向けられた。すると、今度は目の前が真っ暗になり、唇に柔らかいものが触れた。
それが家康の唇だと気付くのに数秒かかった。
家康は、私を解放すると、その場から立ち去ってしまった。
私は家康の姿が見えなくなるまで、その場に立ちつくしていた。
(そんな………)
信じられない。
家康が、私を好きだと言って……。
私を抱きしめて……。
口付けたなんて……。
『ワシは三成が好きだ。』
自分の顔が熱くなるのがわかった。
奴の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
もう、どうしていいか、わからない。
(家康が、私を好きだなんて……。)