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□婚約者は執事のあとで
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ドアが鈍い音を立てて閉まる。
気が抜けたようにソファに身体を預ける麗子。
「お嬢様、はしたのうございます。
せめて、お着換えになっては?」
どこにいたのだろう。
どこからともなく細身の男が姿を現す。
「うるさいわよ影山。ったくお父様ったら勝手なんだから。」
結婚相手くらい自分で探すわよ
と小さく呟いたのを影山は聞き逃さなかった。
「私の知る限り、お嬢様にそのような殿方はいなかったと思いますが…。
私も歳なんでしょうかね…。記憶力が低下」
最後まで言い終えぬうちにクッションが飛んでくる。
「お嬢様、暴力はいけませんよ。
これが旦那様よりあずかっております、
相手の方の資料でございます。」
「暴力なんかふるってないわよ。
クッションが勝手に飛んで行っただけ。」
面倒臭そうに資料を受け取りながら、反論する。
「相手は大手食品メーカーのご子息でございます。
年齢はお嬢様より5つ上、趣味は乗馬とアーチェリーだそうでございます。」
「そんなの本当に趣味にしてるやつなんか見たことないわよ。
嘘っぱちね。
顔もイケてないし…ほんとに5つしか変わらないのかしら?
髪が…危ないわ。
貴方の方がよっぽどマシよ。」
最後の台詞を言い終えた麗子の頬がほんのり染まる。