姫と騎士ブック

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それから数日間、私はほぼ毎日、レッドと共に行動した。まあ私の護衛が仕事だから当たり前なんだろうけどね。


レッドは町にでたことのない私のために、いろんなことを話してくれたわ。


彼の故郷は大自然の中にあって、村人1人1人は決して裕福ではないけれど、皆が助けあって生きていること。

雨上がりの森の木々は、艶々と光って、そこからしたたり落ちる雫はすごく甘いこと。

同じ場所でも時間ごとに鳥のさえずりは変わって、きれいな川では手掴みで魚がとれること。



不思議と一緒にいても苦じゃなかったわ。……ううん、むしろ楽しかった。

私が何か聞くたびに彼は嫌な顔1つせず楽しそうに話してくれるから、私も自然と温かい気持ちになれるの。




お父様もご機嫌な私を、目を丸くして不思議そうに見ていたわ。





「珍しいな。今までの騎士は数日間でやめていたのに……。」


ある日の夕食の席で、お父様はしみじみとした感じでそう言った。


そういえば不思議よね。私はいつもと同じように行動しているのに。

前辞めていった騎士は皆、『あんな可愛げのない姫の面倒みられるか!』って言ってたわ。…別にいいけど。




「じゃあ俺はある意味、英雄ですか?」


レッドはクスクスと笑う。


「お父様。余計なことをおっしゃらないでください。レッドも黙ってて。」

「ハハハ。ああ、そうだ。来週のダンスパーティーはイミテにも出席してもらうからな?」

「…ええ。」


ダンスパーティは他国との交流を深めるもの。もちろん姫である私も出席しなきゃいけないの。正直言ってめんどくさいわ。


「レッドにも警備についてもらうからな?」

「はい。」


…まあ、レッドが一緒ならいいかしら。



「さて、わしは明日の演説の準備をしなければいけないから失礼する。」


父は「頼んだぞ」と、レッドの肩を軽く叩き、部屋をでていった。



「めんどくさいわ……」

「なんでだよ?いいじゃんダンスパーティ。」


王がいなくなった途端、ため口で話すレッド。これは私がお願いしたの。二人きりの時は敬語はやめて、って。

だって敬語ってずいぶん他人行儀じゃない?もう少し、レッドに近づきたいって思ったから…いいわよね?それに彼とは同い年らしいし。


「レッドはいいかもしれないけど、ダンスパーティって正装していかなきゃいけないのよ?動きにくいドレスをきて、髪もきれいにして…」

「まあ、王女だし、仕方ないんじゃねーの?」


もっともな意見ね。


「ふう、民衆に生まれたかったわ…」


私が思わず本音をもらすと、レッドは驚いたように目を見開く。



「…なによ?」

「いや、意外だなって思ってさ。こんなにいい暮らししてんのに、民衆に憧れるんだ。」

「ええ。だって民衆は私にないものを知ってるもの。」



民衆はいつも心から笑っている。

そこにはきっと“本当の幸せ”があるはずなのよ。


私はそんなもの、触れたこともないわ。

触れたくても、触れられない。遠い世界のものだから。



「なに?」

「……秘密。」


…レッドに言っても分かってもらえなそうだから言わないの。















姫は庶民に憧れる
(まあ、もう少ししたら話してあげてもいいわ)

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