姫と騎士ブック
□03
1ページ/1ページ
それから数日間、私はほぼ毎日、レッドと共に行動した。まあ私の護衛が仕事だから当たり前なんだろうけどね。
レッドは町にでたことのない私のために、いろんなことを話してくれたわ。
彼の故郷は大自然の中にあって、村人1人1人は決して裕福ではないけれど、皆が助けあって生きていること。
雨上がりの森の木々は、艶々と光って、そこからしたたり落ちる雫はすごく甘いこと。
同じ場所でも時間ごとに鳥のさえずりは変わって、きれいな川では手掴みで魚がとれること。
不思議と一緒にいても苦じゃなかったわ。……ううん、むしろ楽しかった。
私が何か聞くたびに彼は嫌な顔1つせず楽しそうに話してくれるから、私も自然と温かい気持ちになれるの。
お父様もご機嫌な私を、目を丸くして不思議そうに見ていたわ。
「珍しいな。今までの騎士は数日間でやめていたのに……。」
ある日の夕食の席で、お父様はしみじみとした感じでそう言った。
そういえば不思議よね。私はいつもと同じように行動しているのに。
前辞めていった騎士は皆、『あんな可愛げのない姫の面倒みられるか!』って言ってたわ。…別にいいけど。
「じゃあ俺はある意味、英雄ですか?」
レッドはクスクスと笑う。
「お父様。余計なことをおっしゃらないでください。レッドも黙ってて。」
「ハハハ。ああ、そうだ。来週のダンスパーティーはイミテにも出席してもらうからな?」
「…ええ。」
ダンスパーティは他国との交流を深めるもの。もちろん姫である私も出席しなきゃいけないの。正直言ってめんどくさいわ。
「レッドにも警備についてもらうからな?」
「はい。」
…まあ、レッドが一緒ならいいかしら。
「さて、わしは明日の演説の準備をしなければいけないから失礼する。」
父は「頼んだぞ」と、レッドの肩を軽く叩き、部屋をでていった。
「めんどくさいわ……」
「なんでだよ?いいじゃんダンスパーティ。」
王がいなくなった途端、ため口で話すレッド。これは私がお願いしたの。二人きりの時は敬語はやめて、って。
だって敬語ってずいぶん他人行儀じゃない?もう少し、レッドに近づきたいって思ったから…いいわよね?それに彼とは同い年らしいし。
「レッドはいいかもしれないけど、ダンスパーティって正装していかなきゃいけないのよ?動きにくいドレスをきて、髪もきれいにして…」
「まあ、王女だし、仕方ないんじゃねーの?」
もっともな意見ね。
「ふう、民衆に生まれたかったわ…」
私が思わず本音をもらすと、レッドは驚いたように目を見開く。
「…なによ?」
「いや、意外だなって思ってさ。こんなにいい暮らししてんのに、民衆に憧れるんだ。」
「ええ。だって民衆は私にないものを知ってるもの。」
民衆はいつも心から笑っている。
そこにはきっと“本当の幸せ”があるはずなのよ。
私はそんなもの、触れたこともないわ。
触れたくても、触れられない。遠い世界のものだから。
「なに?」
「……秘密。」
…レッドに言っても分かってもらえなそうだから言わないの。
姫は庶民に憧れる
(まあ、もう少ししたら話してあげてもいいわ)