姫と騎士ブック
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それから数ヶ月、俺は初歩的な剣術と礼儀作法を教わり、騎士の称号を手にした。数ヶ月で騎士として認められるなんて異例の早さだって一時期騒がれたけど…。
体を動かすのは嫌いじゃないし、給与もいい。
でも……、
「レッド、あれ、目障りだわ。斬ってちょうだい。」
目の前にいるお姫様は楽しげに木に止まっているものを指差した。
それは…一羽の鳥。
「…できません。あの鳥だって生きてるんですよ?」
「この庭は私の所有地よ?勝手に人の敷地にはいったんだから、どうしようと私の勝手でしょ。」
俺より年上のその姫様は、何の罪悪感もないようで楽しそうに笑って言った。
動かない俺を見て、はあとあからさまなため息をつく。
「また刃向かう気?今度こそ、お父様に言いつけてアナタのこと追い出してもらうわよ。どうするの?」
目の前にいる少女はふふっと笑った。
ったく、お嬢様っていうのはどうしてどいつもこいつも…。
小さい頃の忌々しい思い出も関係してか、どうも皇族は好きになれない。
はあっと俺がため息をつけば、「文句あるの?」と睨みつけてきた。
「俺、今日でアナタの騎士やめるんで。」
「え!?なにいって…」
俺はその王家の紋章のバッジをとり、ガーデニング用のテーブルに置いた。
「はは、お前も長続きしないな。」
「どうにも自分勝手な奴は無理なんだよなー。しかもあの姫は命も大切にしないからなおさらだったんだ。」
「そんなこと言ってたら騎士はつとまらないぞ。」
「そりゃわかってるけど…。」
今俺が会話しているのは仲介役の軍人。
仕える姫のところまで、いつも彼が案内してくれる。
その人が乗っていた馬が止まり、必然的に俺の乗っていた馬も足を止めた。
「レッド、ここが次にお前が仕える姫のいる城だ。」
「ここか…。ありがとな。」
馬から降りればガシャンと鉄の肘宛と膝宛が音をたてた。
慣れないな…この格好。
「噂によればここの姫は可愛げがなくて、騎士がついてもすぐに辞めるって有名だから、まっ、せいぜい頑張れよ!今度は長続きするといいな。」
「…ああ。」
軍人と別れ俺はさっそく門に入り、扉を目指して庭を歩く。
「しっかし広い城だなー…。……ん?」
ふと空を見上げれば、城のバルコニーに人影が。
淡いサーモンピンクのドレスに、ふんわりとした巻き髪、おまけにキラキラと輝いているティアラ。
あれが…この城の姫?
ふわっと風が吹き、髪が揺れた。
(なんて―…、悲しい目をしているんだろう。)
姫に似合わない表情
(その瞳は町のほうに向けられていた)