姫と騎士ブック

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イミテはパーティー会場でもずっと愛想笑いをしてて…あれ、絶対疲れるよな?



「1曲踊っていただけますか?」


そんなことを思っていたらまた1人男がやってきて、イミテを誘った。


「ええ、ぜひ。」


イミテは器用に笑顔をつくる。


……絶対、無理…してるよなあ…。



見ていられなくなってイミテがその手をとる前に、スッと彼女と男の間に割り込むように入りこむ。



「申し訳ありませんが、姫は疲れているようなので、後にしていただけますか?」


そう言うと男はいかにもうっとうしそうな表情で俺を見た。


「なんだ?付き人か?部外者だったらひっこんでく「私の騎士です。」

「え、ああ…!そうでしたか!」

「この者の言うとおり、今日は少し体調が優れないので、またの機会にさせていただきますわ。せっかくのお誘いを断ってしまい、申し訳ありません。」


イミテがうまくその場をまとめる。

なんだ…やろうと思えばこんな風にかわすこともできるんじゃんか。


それなのに無理してでも愛想よくするなんて…やっぱり国のためなのか?

そんなの、余計かわいそうだ。



「あ、いえ…。それじゃあまたの機会に。」

「ええ。楽しみにしていますわ。」


男がそそくさとした様子で立ち去ったあと、イミテはくるりと振り返って少し俺をにらみつけながら言う。


「それで、レッド?でしゃばった真似しないでちょうだい。あの人が身分の高い人だったらどうするつもりだったの?」

「申し訳ありません。しかし、姫がだいぶ疲れているように見えたので。」

「これぐらいどうってことないわ。いつものことよ。…それにしても、レッド。アナタがタキシードを着るなんて…。」


イミテが俺を見て、ふふっと笑う。

良かった。これは愛想笑いなんかじゃない。



「少し外にでて、風にあたられたらいかがですか?」

「ええ。そうするわ。」


少し休ませようと、イミテと一緒にバルコニーに向かった。









バルコニーにでてすぐイミテがくしゅん、とくしゃみを1つ。

俺は自分の上着を脱いで、ほら、とイミテにかける。


「ありがとう。」

「どういたしまして。風邪ひくなよ?」

「ええ。」


嬉しそうにイミテが笑う。



「綺麗ね…」


星空を見上げて、イミテがポツリとつぶやくように言った。


ああ、あの時と同じ

悲しそうな目だ―…



青白く輝く月は、イミテの白い肌をより強調していて、そこに真紅のドレスがよく映えていた。


その横顔はほんのりと月明かりに照らされていて…


(なんだかこのまま…消えてしまいそうなくらい幻想的、だ)



「イミテのほうが綺麗だ…」



思わず口にしてしまった言葉。

イミテがバッとこっちを振りかえり心底驚いた表情をしていたから、俺は思わず苦笑した。



「きっとどっかの王子様なら、こんなクサいセリフも簡単に言えるんだろうな?」


こんなセリフ、俺には似合わない。


どう頑張ったって王子様にはなれないんだから―…。



「ふふ…そうね。」


イミテは優しく笑ってまた空を見上げた。



「なあ、王がそろそろイミテにも結婚を考えさせなきゃって言ってたぞ。」

「そう…。自由に結婚相手も決められないのね、私は。」


彼女は苦笑する。

それは諦めにも似た表情。


やっぱり、どことなく悲しそうで…。



「…結婚したい相手がいるのか?」


イミテの表情を見ていたら、思わず口を出ていた言葉。




「……ええ。いるわよ。すごくすごく大切に思ってる人が。」


そっか…そうだよな。

イミテだって王女である前に1人の女の子なんだから…いて当然だよな。


それぐらい予想できたことなのに…。


「とってもあったかい人なのよ?」


なんだか聞いていたくなくて。


(俺は何を望んでいたんだろう)




「そろそろ戻るか?冷えてきたし…」


俺は歩き出した。

イミテは何も言わずに後をついてくる。



……イミテが選んだ相手なら、きっといい奴に決まってる。

そいつと結ばれることが、何よりいいに決まってる。


「……頑張れよ。」



背中ごしにそう言って、パーティー会場に戻った。


そのつぶやきは真っ暗な夜に溶けて消えたんだ。















姫への言葉

(これは本音?)

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