わーきんぐ!相馬編

□2品目
1ページ/2ページ




「おはようございまーす」
「おはよう神里さん」
「あれ、相馬さん。早いですね」
「まぁねー。早く来た方が良いから。いろいろと、ね」
「……」

まぁ、相変わらず怪しい相馬さんはとりあえずスルーで。

「他の人たちはまだですか?」
「うん。俺と店長しかいないよ。―あ」
「?」

相馬さんが何か言いかける。
えっとね、と何故か苦笑いしながら、

「神里さん、昨日非番だったよね」

昨日は珍しく休みだったから、たまってた買い物を一気に済ませてきた。

何だろう。昨日何かあったのかな。

「店長から聞いてないと思うから言うけど」
「はい」
「昨日ね、新しいバイトの子が入ってきたんだ」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。入ってきたっていうか、住まわせたっていうか…」

わぁ、小鳥遊くん以来の新しい子だ。
どんな子なんだろう。からかって楽しい子がいいな…。

「山田葵ちゃんって言うんだけどね。音尾さんが拾ってきたらしいよ」
「拾…?」
「家出して住むとこがないから、人の良い音尾さんに頼み込んだんだってー。で、お店に住んでる」
「ここに!?」

ここってそんな住めるようなスペースあったっけ!?

そんな思いが表情に出てたのか、相馬さんは心でも読めるかのように的確に、

「うん、あそこに」

と上を指差す。

あそこって……。

「屋根裏」
「…………」

山田さんはそれで良いんだろうか。

「…えっとじゃあ私、挨拶してきます」
「いってらっしゃーい」

ええと、ここの天井を叩けば良いの…かな?

―トントン。

『………ふぁい……?』
「本当にいた!」

いや、相馬さんを疑ってた訳じゃないけど何か信じられなくて…。

とりあえずノックしてしまったので声をかける。

「えと、山田さん?はじめまして、神里です」
『…やまだ?』

え、何でそこ疑問系?

「や、山田さん?」
『……あ、は、はい!私山田です!山田です!今行きます!』

焦ったような声が天井から響く。
ガタガタもそもそと物音がし、パカッと天井の一部が開いて梯子が勢いよく出てきた。

…わー。こんなのあったんだ。

「…、…っと」

そう言って降りてきたのは、髪の長い小柄な女の子だった。

どこかのお嬢さんみたい…!

「私は山田葵です!貴方は誰ですか?」
「あ、神里里香です。昨日は非番でいなかったんですけど、キッチンで働いてます。よろしくね」
「よろしくですー。神里さん、おいくつですか?」
「はは、いくつに見える?」
「16!」
「…………」

これは若く見られてるーって喜ぶべき?
それとも童顔なのか私!?って落ち込むべき?

「な、なんか複雑そうな顔してますね!山田何かしましたか!?」
「いや…、何でもないです。えと、20歳なんですよ私」
「本当ですか!?童顔ですね!」
「ありがとう。今の言葉で私は落ち込むべきなんだって解りました」
「な、なんで落ち込むんですか!?」

そっか…私童顔なんだ……。

まぁ気を取り直して。

「とにかくよろしくね。何かあったら遠慮なく聞いて下さい」
「了解です!」

山田さんはやる気に満ちた表情でビシッと敬礼すると、またいそいそと梯子を上り始めた。

「着替えですか?」

何となく声をかけると、

「ッ!―あ、いえ…」

一瞬硬直してから、とても言いにくそうに、

「…私…シフトは夕方からなので……その………寝不足気味で」
「二度寝するんですね」
「……や、山田夕方から頑張ります!」

ダッシュで梯子を上りきり、バタンと天井をしめる。

「………んー…」

良い子……、だといいなぁ……。










「どうだったー?山田さん」
「あー……」

ニコニコと尋ねる相馬さんに対し、思わず目を逸らしてしまう。
しかし相馬さんはクスクスと笑うだけだった。

「やっぱりその反応かぁ」
「いやあの、良い子……だとは思い……ますけ……ど」
「うわぁ、すごい途切れ途切れ」

こういう時さらっと嘘がつけたらなぁとか思う。

私が苦い顔をしていると、相馬さんは笑ったまま、まぁまぁ、と、

「まだどんな子か全然解らないんだから」
「そうですよね。多分夕方からはちゃんとやってくれるはずですよね」
「多分ね」

うん、そうだよね。先入観で人を判断しちゃ駄目だよね。ちょっと反省…。

―よし、じゃあ私も掃除しよっと。

「玄関掃除してきます」
「いってらっしゃーい」
「相馬さんもほうき持つだけじゃなくて、ちゃんと仕事して下さいね」
「…バレてたか」






  *




「…ん、神里」

「あ、おはようございます、佐藤さん」

「はよ。早ぇな、朝から」

「いえいえ、相馬さんのが早かったですよ」

「…あー…。あれは良いんだ、あれは例外」

「え?どういう意味ですか?」

「相馬に聞け」

「??―あ、佐藤さん」

「ん」

「昨日佐藤さんもバイトでしたよね」

「そうだが」

「あの、昨日来た山田さんって」

「……………」

「………。どんな子ですか?って聞こうと思いましたが表情で何となく解ったので大丈夫です」

「そうか、それは何よりだ」

「今日も一日頑張りましょう、佐藤さん」

「おーよ」








.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ