わーきんぐ!相馬編

□3品目
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「ふー…。寒いなぁ…」

休憩室でひとりごちる。

ここは北海道だし、寒いのは仕方ない。
けどだからって寒くない訳でもなく…。

という訳で温かいお茶をすすっていると、

「そうだねー」
「わ!?―そ、相馬さん!いつのまに…」
「ん?さっき」

コック姿の相馬さんが、私と同じように湯気の立ったお茶を手に休憩室へやってきた。

「相馬さんも休憩ですか?」
「うん。しっかし寒いねぇ」
「寒いですよね。あー、沖縄行きたい…」
「沖縄?何で?」
「冬でも暖かそうじゃないですか」
「あれ、神里さん知らない?沖縄の冬って北海道より寒いんだよ?」
「え?そうなんですか!?」

うわわ、知らなかった。
あれ、でも何でだろう。沖縄って雪とか降らないんじゃ…。

「気温自体はそんなに下がらないんだけどね、体感気温が凄い低いらしいよ。零下何度とかは頻繁にあるみたい」
「ほっ本当ですか!わぁ…、じゃあ私北海道にいて良かったです…」

沖縄の人たち、頑張って下さい…。

そんな思いを込めて窓を見上げていると、いつからいたのか小鳥遊くんが、

「…いや、嘘に決まってるじゃないですか…」

と呆れたように呟いた。

「?何がですか?」
「今の話です。沖縄のが寒いって話」
「え!?嘘なんですか!?」
「ちょっと小鳥遊君ー、折角神里さんを上手く騙せたのに」
「ちょッ相馬さん!?」

詰め寄ると、相馬さんはハハハと全く悪びれた様子もなく手を振った。

「いやー、案外簡単に騙せるもんだね」
「騙さないで下さい」
「いたっ」

相馬さんにチョップを喰らわせる。

相馬さんは何かと情報通だから、私の勘違いだと思ったのに…。

そして小鳥遊くんに笑いかけた。

「ありがとうです、小鳥遊くん。あのままだと私一生沖縄人に頭が上がらないとこでした」
「あ、いえいえ。というか、何か意外です」

意外?何が?

キョトンとすると小鳥遊くんはその雰囲気を感じ取ったのか、

「いろいろ意外です。簡単に騙されることとか、相馬さんにいじられてることとか、相馬さんにチョップすることとか」
「…意外ですかね?」
「意外です。神里さんは結構しっかり者だと思ってましたけど、案外普通の人なんですね」
「あれ、それって私褒められてるんですか?」
「ハハハハ」

あ、ついに小鳥遊くんにまで笑ってごまかされた。
というか、それには言い訳がありまして。

それを誤解の無いように説明するために、相馬さんを一旦外に出す。

「え、ちょ、俺まだ休憩……」
「今佐藤さん一人じゃないですか。後で私が相馬さんの分も仕事しますから」
「ええ、何のために佐藤君と休憩かわってもらっ――」

バタン。

「…相馬さん、わざわざ佐藤さんと休憩かわってもらったんですか…神里さんと一緒にいるために」
「へ?」

今…、相馬さんが私と一緒にいたいみたいな言い方した気がしたけど……聞き間違いかな。

とりあえずそういうことにして、

「小鳥遊くん、説明がてら…ちょっとした相談があるんですけど…、聞いてくれますか?」
「え?お、俺でいいなら構いませんけど」
「ありがとです」

おぉ、なんかちょっと緊張する。

何となく襟を正して、小鳥遊くんに相談をすることにした。

「まず誤解のないように言っておきますが、私はどちらかというとSです」
「え!?」
「ええ!?何でそこ驚くんですか!?だっだって私、種島さんいぢるの好きですよ凄く!」
「それは胸を張って言うことなんですかね…」

小鳥遊くんは微妙な顔をしつつ、結構真剣に私の話を聞いてくれていた。
そしてんーと唸った後、

「…いや、いぢるのが好きだからって、必ずしもSな訳じゃないと思いますよ」
「え?で、でも…」
「例えば、佐藤さんいるじゃないですか」
「佐藤さん?」

そう、佐藤さん、と小鳥遊くんは指を立てて説明する。

「佐藤さんはよく先輩をいぢってますけど、誰に対してもSな訳じゃないですよね。俺の知る中では結構常識人で優しい人ですし」
「あ…確かに。八千代ちゃんには特に優しいですよね」
「ええ。だから、一概にSとは言えません」
「なるほど…。じゃあ私もそういう類だということですかね?」
「いや、あまり俺は神里さんに詳しい訳ではないのでハッキリとは言えませんが、そういう人もいるってことです」

最後に小鳥遊くんはニコッと笑って、

「まぁ、人間なんてたいていそんなもんです。スパッと分かれてる人の方が少ないと思いますよ」
「そうですか……」
「はい」

小鳥遊くんは大人だなぁ…。私の方が4年も多く生きてるのに、私なんかより全然大人…。

「…って、何か偉そうにすみません。まだ内容も聞いてないのに…」
「あ、いえいえ大丈夫です。勉強になりましたし、それに案外ハズレでもないんですよ」
「というと?」
「……実は…」

少し恥ずかしい話なんですけど、と前置きしてからもじもじと話し出す。

なんか恥ずかしいな、本当…。

「あの、…相馬さんのことなんです」
「相馬さんのこと?」

小鳥遊くんの目が丸くなる。

―と同時に、

「ちょっと待って下さい」
「へ?」

早口でそう告げるといきなり休憩室のドアを開けた。

え、どうし――

「うわぁったた小鳥遊くん!」
「やっぱりいた…」

ドアの後ろを覗き込むと、何と相馬さんがしりもちをついていた。

「そっ相馬さん!?仕事に戻ったんじゃないんですか!?」
「いや、相談とか言ってたから何話してるんだろーってつい…」
「つい盗み聞きをするな!」

さっきまでの内容が内容なので、思わず私も真っ赤になってしまう。
そんな私に気付いたのか、小鳥遊くんが手っ取り早く、

「あ、いた、佐藤さん!相馬さんがサボってるので連れてって下さい!」
「あ?相馬、休憩じゃなかったか?」
「今終わりました!」
「終わらせないで小鳥遊くん!」
「すみませんが佐藤さん、俺今から神里さんと込み入った話をするので相馬さんを見張っててくれませんか」
「…?よく解らんが了解した。仕事しろ、相馬」
「そんな!?」

と結局佐藤さんに引きずられてキッチンに行った相馬さん。

なんていうか、若干申し訳ない気もするけど、ここは小鳥遊くん達のご厚意に甘えさせてもらおう。

「ありがとです、小鳥遊くん。危うく相馬さんに聞かれるとこでした」
「ああ、いえ、気にしないで下さい。神里さんにはいつも仕事でお世話になってますし」
「そういえば、私は小鳥遊くん的に言うと年増だけど、結構普通に接してくれてますよね」
「神里さんは常識人で普通に良い人なので」
「あ、佐藤さんと同じ評価ですね」

軽く談笑しながらもう一度休憩室に戻り、イスに座る。
冷めてしまったお茶を飲みつつ、仕切り直して改めて相談をした。

「で、相馬さんのことなんですけど…」
「はい」
「あの……私。…昔から相馬さんといると調子が狂うというか…。何でしょう、他の人と同じように接することができないんです」
「………」
「なんていうか…。相馬さんにはいぢられてばっかりで。だけど何故か相馬さんはいぢれないし…。あ、勿論脅された時はまた別ですが」
「……………」
「でもだからって相馬さんが嫌いって訳じゃなくて、寧ろなんかこう、
胸がもやもやするっていうか…………あ、あれ?た、小鳥遊くん?どうしてそんなに微妙な顔してるんですか?」








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