わーきんぐ!相馬編

□4品目
1ページ/3ページ












「神里さんっ!」

キッチンでチャーハンに挑戦していると、不意に山田さんが抱きついてきた。

「わっ、山田さん。どうしました?」

山田さんは最近ワグナリアに入ってきた可愛い女の子スタッフだ。

仕事はまぁ、ちょっと苦手みたいだけど…寂しがり屋なだけの良い子です。

「相馬さんが山田をいじめてきます!助けて下さい!」
「そ、相馬さんが?」
「ちょっとちょっと、山田さん。別にいじめてる訳じゃないよ」

少し焦った顔をしながらキッチンに入ってきたこの男の人は相馬さん。

ついに認めました。私の、好きな人です。

とりあえず中華鍋を置き、話を聞く態勢になる。

「何があったんですか?」
「山田が相馬さんにいじめrむぐっ!」
「ちょっと山田さんは黙ってようか」

相馬さんが山田さんの口を押さえ、ついでに私から引きはがした。

えっとねー、と相馬さんが話し出す。

「俺、山田さんが悪いことしたら小鳥遊君と佐藤君に言うように言われてるんだけど、
それが原因で山田さんが俺にいじめられてるって思ってるんだよ」
「あー。そうなんですか」
「っぷは!だ、だって相馬さん酷いです!」
「いやぁ、山田さんがちゃんと仕事すれば良いんじゃないかな?」
「山田は働く気はありませんよ!」
「胸張って言わないで」

相馬さんに窘められてわーわー言う山田さんが見てて何だか可哀相になり、
思わずよしよしと山田さんの頭を撫でてあげる。

「まだ山田さん新人さんですもんね。多少のミスは仕方ありませんよ」
「神里さん…!山田を甘やかしてくれる…!」
「神里さん、あんまり甘やかすと付け上がるよ?」
「ええ…、だけどなんか…」

何でだろう、無性に山田さんの頭撫でたくなる…。

「山田神里さん大好きです!山田の家族になって下さい!」
「か、家族?い、いやそれはちょっと…」

流石に苦笑いすると、遠くから誰かの怒鳴り声が聞こえた。

「やーまーだー!!山田何処だーッ!!」
「あ、小鳥遊君の声」
「煤v

山田さんは一瞬で青冷めると、ダッシュで何処かへと行ってしまった。

早っ…。

山田さんの黒髪が消えると同時に、小鳥遊くんが鬼のような形相でキッチンに入ってくる。

「あっ相馬さん神里さん!山田見ませんでしたか!?」
「さっきまでいたけど、どっか行っちゃったよ〜」
「そうですか…。山田……また掃除サボりやがって……」

ぶつぶつと呟きながら、山田さんのような早さで去っていく小鳥遊くん。

小鳥遊くん…怒ると怖い……。

「小鳥遊君、怒ると怖いよねー」

あ、相馬さんも同じこと思ってたみたいだ。ちょっと嬉しい。

「相馬さんも怒ると怖そうです」
「俺?―そう見える?」
「はい。でも、怒ったところ見たことないですけど」

そういえば相馬さんは全然怒らない。怒られたり脅したりするところは何度も見たけど。
すると相馬さんは苦笑した。

「まぁね。そういう争い事って苦手なんだ、俺」
「あ、私も苦手です」
「ね、怖いよね。だからそうなる前にうっかり個人情報晒しちゃったりして」

脅してるんですね。

「相馬さんは本当に何でも知ってますもんね」
「世間話が好きでさ」
「『世間話』ですか……」

それにしては個人個人について詳しすぎる気が…。

「まぁでも、そのお陰で今山田さんに嫌われちゃってるみたいだけど」
「あぁ…」

ハハッと相馬さんが笑うのと同時に、佐藤さんが休憩から戻ってきた。

「あ、おかえりです佐藤さん」
「おかえり佐藤君」
「ん。お前らちゃんと働けよ」
「「はーい」」

佐藤さんの一言で、私も相馬さんも己の料理に取り掛かる。

そして数分後―。

チャーハンと格闘していると、不意に腰に誰かが巻き付いてきた。

「っきゃ!?」
「神里さんっ!―って神里さん腰細くないですか!山田より細いですよ!」
「あ、山田さん…。小鳥遊君はもう大丈夫なんですか?」

腰に巻き付かれたまま問い掛ける。
山田さんは途端にぶっすーという顔をして、

「怒られました、さっき。なので山田は機嫌が直るまで仕事しません」
「あ、はは…」
「働け」

佐藤さんの容赦ない言葉に山田さんは涙目になってしまったので、慌てて頭を撫でる。
するとすぐに嬉しそうな表情に変わった。

拗ねたり泣いたり喜んだり…。忙しいなぁ、山田さん。可愛いけど。

「それで、どうしたんですか?山田さん」
「あ、そうでした。山田、神里さんに聞きたいことがあったんです」

私に聞きたいこと…?

目をぱちくりとさせると、山田さんは相馬さんと佐藤さんに、

「少し神里さん借りてもいいですか?」
「えっ」
「…駄目だ。仕事がはかどらん」
「神里さんに質問があるんです」
「ここでしろ」
「スリーサイズを聞きたいんです!」
「えええ!?」

スリーサイズ!?わ、私教えないよ!?

「じゃあ尚更ここで話してよ!―あ゛痛ッ」

変なことを口走る相馬さんは中華鍋で殴っておきました。

「……3分な」

佐藤さんが渋々といった感じで指を3本立てる。
山田さんはそれで良かったようで、私の手を引いて裏口まで連れていった。

立ち止まったところで、

「や、山田さん、スリーサイズは流石に…」

と声をかける。―が、

「さっきのはあそこから抜け出す口実です。スリーサイズが聞きたい訳じゃありません」
「あ、そうなんですか?じゃあ何を…?」

再び目をぱちくりさせると、山田さんはやや紅潮した顔で、

「相馬さんのことを教えて下さい!」

と言ってきた。










.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ