わーきんぐ!相馬編

□9品目
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―ピンポーン


「はぁーい」

玄関に向かい、ドアを開ける。
ドアの向こうには、可愛らしい恰好をした女の子が、若干恥ずかしげに立っていた。

「いらっしゃい、伊波さん」
「お邪魔します」


今日は二人でクッキー作りです。












今日は休日。
バイトは二人とも午前中のみでシフトが組まれていたので、それを利用して午後から私の家でクッキー作りをすることにした。

「―じゃあ、作っていきましょっか」
「はい!よろしくお願いします!」
「まず、粉をふるって―」

伊波さんは自分が言っていたほど料理下手ではなく、私と変わらないくらい慣れているように見えた。

「全然上手じゃないですか」

笑いながらそう言うと、伊波さんは照れたように、

「じ、実は…。クッキー作りを誘われた日から、美味しいものを作りたいなぁって思って…。毎日練習してたんです」

「毎日!?」

い、伊波さん、よっぽど小鳥遊くんが好きなんだなぁ…。本当に可愛い。
私なんて昨日練習したくらいなのに…。

「よいしょっ…」
「そろそろ生地も良い具合ですね。伸ばして型取っていきましょうか」
「はいっ」
「えーと、小鳥遊くんだと小さい方が良いかなって思って、買ってきました、小っちゃい型」
「わっ…可愛い!わざわざ買ってきてくれたんですか?」
「まぁ、渡す相手には喜ばれたいですから」
「じゃあ相馬さんにはハートマークをあげるんですか?」
「へっ…!?」

急に相馬くんの話になり、不意打ちを喰らって頬を染めてしまう。

「そ、相馬くんには…。いきなりハートは…レベルが高いです…!」
「レベルですか」
「レベルです」

こくこくと頷き、しばし薄く伸ばすことに集中する。

しかしすぐに、

―相馬くんに、……かぁ…。
相馬くん…喜んでくれるかな…。

ハート……。

私の気持ちです、とか言って…?


………。



わぁぁぁ!?//何考えてるの私!?///


「っ神里さん!?いきなり棒で生地叩き出してどうしたんですか!?」
「ごっ御免なさい…!ちょっと、考えてたら、は、恥ずかしくなっちゃって…」
「本当だ、顔も真っ赤ですね…。相馬さんのことですか?」
「…えっと、はい…」

頷くと、伊波さんはふふっと笑った。

「―神里さんって、相馬さんのことになると別人のようになりますよね。すぐに真っ赤になって…。可愛いな」
「い、伊波さんに言われるとは思わなかったです…」
「わっ私はほら!男の子が苦手だから、慣れてなくて…!」
「私だって同じですよ」

少し苦笑する。

「私は男の人が苦手って訳じゃないけど、慣れてませんし、すぐ照れちゃいます」

だから、と一呼吸置き、

「伊波さんと私は、ちょっとの違いはあるけど、同じラインに立ってるんですよ。
だから、苦手だとか片思いだとか気にしないで、どんどんぶつかってっちゃえば良いと思います」
「………」
「私は相馬くんにぶつかって貰えたから、相馬くんと一緒にいられるんですよ」

最後ににっこりと笑って、伊波さんに勇気を与えるように頷いた。

「ぶつかる……」
「あ、殴るとかそういう意味ではなく」
「えへっ。はい、解ってます」

それでも伊波さんは握り拳を作り、

「よーしっ、頑張るぞ!」



満面の笑みで、勢い良くこね板を叩き割った。



「「………」」

少しの沈黙。


「―ごっ御免なさい神里さぁぁんっ!!」
「え、えと…。た、小鳥遊くんを殴り殺さないようにして下さいね…?」









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