わーきんぐ!相馬編

□10品目
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「佐藤さん」

俺がいつものように後片付けをしていると、
金髪がかった茶髪をゆさゆさと揺らして神里が声をかけてきた。

「ん、何だ?」

流れるような動作で神里の髪を弄りつつ、用件を尋ねる。

「あの、今日ずっと見てて思ったんですけど、
佐藤さんって―笑わないですよね」
「………」

………。

「神里……。お前……、」
「―あ、ごっ御免なさい!失礼ですよね、笑わないとか言って…」

「ストーカー宣言か」

「ええ!?いや、反応して欲しいのはそっちじゃなくて!」

つか、相馬と付き合ってんだろ?相馬見とけよ。

そんなことを思いつつ髪をくるくる巻いていく。

「そうじゃなくて、昨日何となく考えてたんですけど、思い返せば佐藤さんが笑ったとこ見たことないなって」
「そうか?」

笑わないっつってもな。別に人生が楽しくない訳じゃない。

神里や種島弄りは楽しいし、その反応もなかなか面白い。
ちなみに言うなら、種島はストレス発散用、神里は娯楽用だ。

「いつも佐藤さんは冷静で落ち着いてますよね。……八千代ちゃんには弱いけど」
「小声聞こえてるぞ」
「―痛っ」

軽く髪を引っ張って戒める。

さてと。今日はどんな髪型にすっかな。
巻いたからこれを利用して……。……縦ロール………チョココルネ……、……何か考えるの面倒くせぇから適当で良いか。

「えと、いつぐらいから…?」
「さぁな。物心ついた時にはこうなってた」
「えぇ…?本当ですか?」

よし、お子様ランチの国旗を適当に挿すか。後は…そこら辺にあった相馬の携帯でも編み込んでやろう。

それにしても神里は、乱雑に扱わなければ髪を弄ることに文句を言わない。
キッチン担当ということもあるだろうが、まぁ大半はそのおかしさに気付いてないからだとは思うけどな。

「何かあった訳でもなく?」
「記憶にないな」

今度髪が固まるスプレーでも買うか。…いやでも固まって戻らなくなったら流石に怒るか。
いくらホールじゃないとはいえ、一応飲食店だしな。

けど、せめてリボンやゴムは調達するか。小鳥遊あたりが用意してくれねぇかな。

「佐藤さん…。何か悩み事があるなら、遠慮なく言って下さいね?」
「本当か」
「はいっ!」

神里の威勢の良い返事に、それじゃ遠慮なく、と髪を持ち上げる。


「ここの髪に寝癖がついてて上手く髪がまとまらないんだが、何とかしてくれ」

「…………佐藤さん、私の話、適当にしか聞いてないですよね」


ひどくガッカリした様子が、背中のオーラから伝わってきた。
















「……言って下さいと言ったのは私なので……」

と律儀に神里が髪を水で濡らし、寝癖を直したところに相馬がやってきた。

「二人とも、何やってるの?」

どうやら相馬は在庫整理をしていたらしく、ダンボールを抱えている。

まぁ手伝う気はないので無視だけどな。

「見ての通り、私の髪で遊ばれてます…」
「…佐藤君…」

何故か哀れみの目で見られた。

―と、そこにひょいと種島が顔を出してきた。

「さとーさん、お皿を…」
「あれ、小鳥遊君は?」
「かたなし君は伊波ちゃんに殴られてたみたいだったから、頼み辛くて」

そうか、と頷いて神里の髪から手を放し、種島についていった。


今日もいつも通りだったな、うむ。

























『やっと終わった…。……、……?』

『どうしたの、里香ちゃん』

『いえ…、何だか頭が重い気がして…』

『ああ、髪が盛られてるからじゃない?』

『ですかね』

『―あ、そうだ、里香ちゃん、俺の携帯知らない?さっきここに置いといたはずなんだけど』

『携帯ですか?見てませんけど…』

『んー…。何処に行ったんだろう』

『あ、鳴らしてみます?』

『うん、お願い』







―その後、神里は頭の中がバイブするという奇妙な経験をしたとさ。







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