わーきんぐ!佐藤編

□4品目
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「志麻さん志麻さん」
「……はい」
「志麻さんって、結構無口だよね。人見知りなの?」

相馬が割とあっさり心にズカズカと入り込む会話を、俺も何とはなしに聞いていた。

あくまで仕事をこなしつつ、耳を傾ける。
…自分から聞きこそしないものの、興味が無い訳ではない。

――知っておいて損は無いしな。

昨日相馬が言っていた通り、よく観察してみると、尋ねられた志麻は一瞬首を傾けた後、

「……人見知りです」

こくり、と小さく頷いた。

――なるほど、動作が小動物みたいに小さくて気付かれにくいのか。

志麻はそれ以上何かを言う訳でもなく、感情を汲み取れない瞳で視線を彷徨わせている。

――……なんていうか、大丈夫か、こいつ。

バイト2日目にして早速不安を覚えてきた。
しかし俺とは反対に、相馬は暢気に雑談を続ける。

「そっかそっか、それじゃあ緊張するのも仕方ないね。キッチンには男しかいないし」
「………緊張します」

その台詞を聞いて、ふと、もしかしたら男に免疫が無いだけじゃないのか、と思った。
そういえば少しだけ指先が震えているし、何となく瞬きが多いように感じられる。

――なんだ、そういうことか。

それなら別に問題は無い。
伊波みたいに殴るなら死活問題だが、一応聞いたことに答えているし、仕事もするしでこちらに害は無い。

――むしろなんつーか…。…からかいたいよな。

あわよくばと考えつつ、確認のため本人に問う。

「志麻」
「……はい」
「もしかしてお前、男に免疫無いのか?」

直球で聞いてみたところ、志麻は目を3回瞬かせ、僅かに頬を紅潮させて頷いた。

――なんか、やっぱり動きがいちいち小さいというか細かいというか…。
――まるでリスみたいだ。よし、あだ名リスに決定。

志麻の様子を見て、隣の相馬が『おお』と声を上げる。

「男が苦手なんだ。それは大変だね。いきなり男2人に囲まれて仕事するなんて、ハードルが高いかも」

心配そうな相馬に、少し止まってから小さく首を振った。

「……平気、です。…喋れば、私も、慣れますから」
「そう?じゃあ無理せずゆっくりでいいから、だんだん慣れていこうか」
「……はい。それまで、よろしく…お願いします」

確かに、若干片言ながらも、さっきより会話はスムーズになっている。

――育て甲斐がありそうだな。

思わずそんなことを思った。


「こっちこそよろしく。ね、佐藤君」
「おうよ」

物は試しと軽く頭を撫でてみたところ、志麻は一瞬身体を硬直させ、驚いた顔でこちらを見上げた。

――お、なんだ。表情、変わるじゃねーか。

更に撫でると、何かを言いかけるように口を開き、しかし言葉が紡がれることはなかった。

――とりあえず、成長。

「よかったな、シマリス」
「……?シマリス…?」

褒められたことと、シマリス呼ばわりに疑問を感じたのか、解りやすく首を傾げていたが、
何も言わない俺にそれ以上追及することもなく、しばらく大人しく撫でられていた。











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