わーきんぐ!佐藤編

□9品目
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「―あれ?」

お店が暇なので皿を磨いていると、ふとキッチンから見知らぬ女の人が出てきた。

――誰だろう、あの人……。

すると、私の声に気付いた小鳥遊くんが遠目から声をかけてくれた。

「どうしたんですか、伊波さん」
「小鳥遊くん、あそこの人…」

と、女の人は種島さんと話し出している。

――種島さんの知り合――って、コック姿?

私の視線を追った小鳥遊くんが、ああ、と声を上げた。

「伊波さん、まだ会ってませんでしたっけ。新しく入ったんですよ、キッチンに」
「そうなの?―女の人かぁ、よかった〜。これで私、キッチンの人に警戒しないで済むかも」
「そうですね。相馬さんとかを殴ることが減りそうで何よりです」
「うん!あ、私、挨拶してくるね!」

かちゃ、と丁寧に皿を片付け、ぱたぱたと種島さん達に走り寄る。

近くで見ると、新しく入った人はどこかしら可愛くて、それでいて行動一つ一つが
丁寧というか細かいというか、小動物みたいな印象を受けた。

「あのっ、始めまして、伊波まひるですっ」
「…あ、伊波さん…。相馬さんから聞いてます」
「あ、私の…ことをですか?」

男の人を殴っちゃうこととか…?と聞くと、こくり、と頷いた。

――あんまり喋る方じゃないみたい。でも、可愛いなぁ〜。
――こういう、動きが小動物みたいな人は小鳥遊くんは好きなのかな。ミニコンの対象?

――って、私、何考えてるんだろ!小鳥遊くんのことなんてどうでもいいじゃない!

脳内でかぶりを振っていると、

「…あ、私は志麻楓です」

にこ、と控えめに笑いかけてくれた。

――わぁ、可愛い…!志麻さん、笑うといっそう可愛いなぁ。

「キッチンの、担当で…。…私も、男の人、苦手なんです」
「そうなんですか!?」
「はい、…ただでさえ、人見知りなんですけど…」

それは何だか、志麻さんには悪いけど、嬉しいというか、心強いというか。

「だから、相馬さんに、似てるね、と言われました」
「そうですね!…まぁ、私の方が重症ですけど…」
「一緒に、治していきましょう」
「「……!」」

ほんわりと笑う志麻さんに、私も種島さんも『おおお』と顔を輝かせた。

「志麻さん、笑うと可愛いね!」

種島さんが素直かつ無邪気に褒める。
こういう種島さんの率直なところは見習いたいよね。

褒められた志麻さんは、一瞬驚いたように見え、

「…そんなこと…ないです…」

少し頬を染めて俯いた。

――わぁ、ますます可愛いなぁっ。

「どうしたらそんなに可愛くなれるんだろ〜。知りたいなぁ!―とと、すみません!」

はしゃいでいると、誰かにぶつかってしまった。

反射的に謝ってから『男の人だったらどうしようでももうぶつかっちゃったし私の馬鹿もしかしたら振り向かなければ問題無い?
でも気になるし失礼よねああどうか八千代さんか店長でありますように!』と2秒で考えて振り向く。

「――――!」
「――伊波さ――」
「小鳥遊くんの馬鹿ー!」
「げふぁっ!」

結局殴ってしまった。

――だっ、だって小鳥遊くんだったんだもん!
―って、よく考えたら小鳥遊くんは何もしてないのに馬鹿とか言っちゃったし私!

慌てて近寄って謝りに行くが、勢いが余り、

「小鳥遊くん、御免――っきゃああ!」
「追い撃ちですか伊波さん!?」

ばしっこーん!と派手な音を立ててまた殴ってしまう。

――ああっ、なんかもう、本当に御免なさい小鳥遊くんっ!

「げふっ、…い、伊波さん…今日は何で第二弾まで…」
「あ、あのっ、ち、違うの!あ、謝ろうとしたんだけど、勢いが余っちゃって…!」
「今回はぶつかってしまった俺も悪いのでむやみに謝らなくても良いです!」
「ごっ御免なさいっっ」










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