わーきんぐ!佐藤編

□10品目
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「あ。お帰り、志麻さんっ…」
「………ただいま、です」

若干やつれた相馬が、律儀に志麻に話しかける。

今度は俺も志麻に近寄ると、何を思ったのか志麻は顔…というより頭を伏せった。

「…?何してんだ?」
「………、頭に手を置かれるのかな、と…」
「いや、違うけど……、置かれたいのか?」

違…っ!と妙に志麻が慌てて否定する。

――お。面白いなこいつ。からかえるまであと少しってとこか。
――…何で慌ててんのかは知らねぇけど。

「そっそれで!……何、ですか?」
「ん?ああ、そうだった」
「………?」

手を差し出す動作をすると、志麻はこてんと首を傾げた。
それから怖ず怖ずと手を差し出す。

その小さな手にプレゼントを置いてやった。

「……?……何ですか、こ――」
「さっき言ったろ、あげるって」
「――どんぐりっ」

その正体に気付いた途端、身体ごとビクッと震わせた。
拳をぐっと握り締め、そのままバッと俺を見上げる。

「私っ要らないって言いましたよねっ」
「――おお」

ショックの勢いか、普通に俺に噛み付く志麻。これが素か。

感心すると、志麻はハッとしたように固まった。

「………、えっと、……今のは、」
「素か」
「…、………、…えっと、………はい…」

小さくなって頷く志麻。

――………、……。

「…………」
「……?」

撫でてやった。俺の顔を見られないように。


――…何だよ。こいつ…。




――…………可愛い…な…。



「………」

俺が撫でたことを慰めとでも受け取ったのか、志麻は大人しく撫でられている。

隣で相馬が一歩引き、物凄く嬉しそうな顔をしているのは無視だ。ちらりとも目線はやらん。

「―ああ、それと志麻」
「……?」

握り締めたままの拳を開いてやる。

志麻は目を瞬かせてそれを見ていたが、掌の中のそれの本当の正体に気付くと、
驚いたように小さく声を漏らした。

「これ…、クッキー…!」
「コックがどんぐりなんか持ってたらクビだろ。気付けって」
「………」

そう言われ、志麻はむぅと唇を尖らせたが、すぐに口元を綻ばせた。

「……どんぐりより、嬉しい」
「――――」

少しぎこちなさは感じるものの、素直に笑う志麻に、俺はまた目を逸らす。


――…何だかんだ言って俺…、志麻に…

――敵いそうに、…ないな。


そう思ってしまった自分に苦笑し、それからハッとする。


――俺、今……―


「―笑った」
「っ……」
「…佐藤さん、…今…、笑いました、よね」
「………笑ってねぇ」
「……笑いました」
「笑ってねぇ」
「……笑いました」


今、気付いたこと一つ。




志麻と話すのは、案外心地良い。








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