君に出逢えてよかった

□第3章 卒業
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2学期になるといよいよ受験モードとなっていた。
一般入試組は以前からだったが推薦組も志望校に合格するために腹の探り合いをしていた。
学校の中庭で夏海は一人でぼんやりとしていた。
今日は香織が大学の推薦入試のため高校には来ていなかったのだ。

 「吉野さん、今、一人か?」
 「うん。香織が今日、入試でいなくてね。」
 「そっか。吉野さんって進路どうするん?」
 「進路?希望は大学進学だよ。土屋君は?」
 「俺も進学希望やねん。」
 「進学先がね、希望通りいけば多分関東圏内になりそうなんだ。」
 「…そうなんや。」
 「私、3年になってから埼玉から引っ越してきたでしょ?」

土屋はその話で彼女が埼玉県から引っ越してきたことを思い出す。
春休み中、二人が出逢った時に話していたことを…。

 「…実は引っ越してくる前に関東圏内の大学から声がかかってたんだ。」
 「さすがにその時は2年やし、返事は保留したんやろ?」
 「うん。それに、こっちに来てから希望が変わるかとも思ったんだけど…。ね?」
 「そっか。俺はな、順調にいったら関西圏内の大学になりそうや。」
 「お互い、希望通りになるように追い込み頑張ろうね。」
 「せやな。」

夏海はこの時、土屋が少し寂しそうな表情(かお)をしたことに気づいていなかった。
穏やかな秋の昼下がり、中庭で二人はひっそりと話をしていた。
『この穏やかで優しい時間がずっと続けばいいのに…。』と夏海は心の中で思っていた。
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